不思議な出会い

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不思議な出会い

「さてと!」  体の疲れが少し癒えたところで、立ち上がる。  ほんの一時休んでいる間に、すっかり日が暮れてしまっていた。今日の巡回はもう仕舞いにする他ないだろう。  夜の街で舞うなら話は別だが、間違ってもそのような道に足を踏み入れて、大社の名を汚すわけにはいかない。  頬を叩いて気合を入れる。 「ひとまず、今晩の宿を――」  突然、眩しい光が降ってきた。  何事かと思い、眉をひそめながら顔を上げる。 「――なに、あれ」  私は自分の目を疑った。  何しろ、巨大な光が、円のような形をとって宙に浮いているのだ。  これまで修行のために多くを学んできたが、あんな現象はどの書物にも書いてなかったし、聞いたことすらない。 「もしかして……だいこくさま?」  不甲斐ない私をお叱りにいらしたのだろうか。  いや、神ともあろう御方が、下界の小娘一人を奮い立たせるためにわざわざ足を御運びになられるはずがない。はっきり言って、あり得ない話だ。そんなこと。  だけど、現に今、目の前であり得ないことが起こっている。ならば、私は神に仕える身として全力で応えなければならない。  私は直ちに正座をし、首を垂れた。服の汚れなど知ったことか!  瞬間、全身に並々ならぬ衝撃が走った。 「~~~~~~~!!」  予想だにしない衝撃に声を上げそうになったが、私は黙って首を垂れ続ける。  これは不甲斐ない私へのありがたい天罰だ。ならば、それをありがたく受けることは当たり前のこと。声を上げるなど(もっ)ての(ほか)だ。 「あ、あの、大丈夫ですか?」 (……ん?) 「お怪我はないですか?」  人の声だ。そう感じて、思わず顔を上げた。 「あ、よかったぁ。ご無事で何よりです」  そこにいたのは、娘だった。  一目で呆けてしまうくらいに美しい娘だ。それだけに、艶やかな黒髪を肩で切り揃えてしまっているのが残念でならない。私と同じ年頃だと思うが、おそらく罪を犯したか出家したかしたのだろう。  混沌を極める世の中だ。悲しいことに、こんな娘が俗世から離れざるを得なくなることはけして珍しくはない。  だけど、それ以上に娘の恰好はあまりにも奇怪だった。  まず着物ではない。明らかに異邦人のそれだ。  帯は生地が薄い上にふわふわしていて、帯というよりは羽衣みたいだ。  そして驚くことに、襟がない。首周りに大きな穴が開いていて、鎖骨までよく見える。袖の長さも恐ろしく短い。しかも、やたらと短い裾からは白い生足が露わになっていて、見ているこっちが恥ずかしくなってくる。  手足はおろか首も丸出しで、もはや裸同然だ。これは服と言えるのか? 「どうなさいました? 震えて――」 「今すぐ服を着て頂戴!!」  羞恥心のあまり、大社の巫女にあるまじき、はしたない声を上げていた。  ひとまず、私は娘を連れて町の宿を訪れた。  宿の女将は当然ながら、娘の奇怪な恰好を見て眉を存分にしかめたが、娘二人なら問題ないと判断したのだろう。私がちゃんと銭を出したこともあって、追い出されることはなかった。  これで今晩の雨風は防げる。部屋に入ると、安堵の息が零れた。 「とりあえず、これに着替えなさい」  先ほど店で買った着物を娘に渡す。
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