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ジーダは深夜に目が覚めてしまった。ジーダは汗をかいていた。今でも時々思い出し、その度に大汗をかいてしまう。それぐらい苦しい過去だ。
ジーダは時計を見た。午前1時だ。こんな時間に起きてしまうなんて。なんて自分は悲しい人生を送ってきたんだろう。家族どころか、友達も故郷も失った。
ジーダは流れる車窓を見ていた。だいぶ北に進んだ。だが、外にはいまだに原野が広がっている。サイカ駅まであと10時間はある。サイカシティまではまだ遠い。外は暗闇で何も見えない。
ジーダはペットボトルのお茶を飲んだ。気持ちを落ち着かせたい。もうこんな悪夢を忘れたい。でも忘れることができない。焼き払った男は今、どうしているんだろう。今でも許せない。絶対に警察送りにしてやる!
少し肌寒くなってきた。ジーダは少し体が震えた。ジーダは持ってきた長袖を着た。サイカシティは常に真冬の天気だ。
ジーダは外を見て、遥か向こうにある故郷の日々を思い出していた。もうあの頃には戻れない。村は焼き払われ、なくなった。テッドはいつ死んだんだろう。村を焼き払った奴らは、テッドを殺した奴はどこに行ったんだろう。いつか、彼らに復讐したい。そして何より、女神竜サラは今もここにいるんだろうか? もしいるとしたら、また会いたいな。
しばらく走ると、夜行急行は駅に停まった。駅は静まり返っている。乗り降りする人は誰もいない。
「この駅で50分ほど停まります」
それを聞いて、ジーダは列車を出て、ホームに降り立った。ペットボトルのお茶がなくなったので、ここで買おうと思った。
運転手や車掌はあわただしく動いていた。この駅で列車はスイッチバックする。また、ここからは急坂に備えて補助機関車を前後に連結する。ここから次の駅まではアプト式で、補助機関車には車輪の中央に歯車が付いていた。
ジーダの他に、乗客がホームに出て外の空気を吸っていた。ジーダの他にも自動販売機で飲み物を買っている人もいる。
しばらくして、アプト式の機関車がやって来た。機関車は機回し線で反対側に向かう。どうやら後ろに連結する機関車のようだ。眠たそうな鉄道ファンはその様子を撮っている。
その後、前にもアプト式の機関車が連結された。ジーダは再び車内に戻った。元の位置に戻ると、前に機関車が連結されている。
50分後、夜行急行は大きな汽笛を上げて発車した。ジーダは体育座りをして機関車をじっと見ていた。
機関車は大きな音を立てて走っていた。だが、スピードは落ちた。アプト式はあまりスピードを出せない。
しばらくすると、アプト区間に入った。歯車とかみ合う音が聞こえる。夜行急行は急坂をゆっくりと登っていた。
車内は静かだ。もうみんな眠ったんだろうか? 客室は減灯している。辺りにはモーター音しか聞こえない。
ジーダは側面から外を見た。夜行急行は多くのトンネルをくぐり、その合間にレンガ造りの橋を渡っている。相変わらずスピードは遅い。
しばらく走ると、大きな駅に着いた。そこはリゾート地のようだ。夜も遅いためか、駅は静まり返っている。夜行急行がよく停車しても誰も降りない。
この駅でアプト式の機関車は切り離し、ここから再び非電化区間だ。駅の先にはディーゼル機関車が待機していて、アプト式機関車が切り離されると、ディーゼル機関車がやってきて、夜行急行の先頭に連結された。
ジーダは再び最後尾から車窓を見た。外はほとんど真っ暗で、ホームの明かりしか見えない。お昼にはどれぐらいの人々が乗り降りするんだろう。
ジーダは再び眠ってしまった。今度こそはいい夢が見られるんだろうか? ジーダは不安になった。だが、眠らなければならない。
翌日、目覚めるとそこは雪景色だ。夜行急行の機関車は再びディーゼル機関車だ。あの後、もう一度スイッチバックをしていて、ジーダのいる車両は再び最後尾になった。
思えば10年前に無蓋貨車の中から見たのもこの景色だ。ジーダは10年前に逃げ出した時の事を思い出した。お腹を空かせて焼き払われた村から逃げた。あの時の事は忘れない。悔しくて、悔しくてたまらない。いつか、あいつに復讐したい。
しばらく走ると、夜行急行は駅にやって来た。まだ早朝だ。駅は静まり返っている。ジーダは立ち上がった。ここでサンドイッチを買おう。
夜行急行が停まると、何人かの乗客が売店に向かった。ジーダも売店に向かった。売店ではサンドイッチやパンが売られている。
その間、夜行急行は機関車の付け替えをしていた。ここから先は電化区間で、ディーゼル機関車から電気機関車に付け替える。
車内に戻ったジーダはサンドイッチを食べ始めた。夜行急行はなかなか発車しない。付け替えや時間調整だろうか? ジーダはまだ暗い静かな総長の駅を見つめつつ、サンドイッチをほおばっている。
食べ終えた頃、夜行急行は大きな汽笛を上げて、駅を出発した。駅員がカンテラを持って夜行急行を見送っている。ホームには駅員と売店の従業員以外、誰もいない。
あまり眠れなかったジーダは再び眠ってしまった。終点のサイカまではあと6時間余り。
ジーダは目を覚ました。ジーダは腕時計を見た。あと1時間ぐらいでサイカ駅だ。サイカシティが近づいてきたようだ。ジーダは持っていたコートを着て、マフラーを巻き、ニット帽をかぶった。
サイカシティは世界で最も北にある街だ。かつてここは貧しい村だった。だが、魔獣の英雄の1人と言われているバズ・ライ・クライドがこの村を発展させ、聖クライド魔法学校を設立した。これらの事から、サイカシティは『北の聖都』と言われている。
終点のサイカ駅が近くなって、乗客はみんな慌しくなり始めた。寝台車の人々は大急ぎで寝台を収納していた。
サイカシティが近づくと、列車は住宅街の中を走り始めた。雪は深く積もっていて、家の前には大きな雪の壁がある。その向こうでは、子供達が雪遊びをしている。
ジーダはそんな子供達をうらやましそうに見ていた。6歳で友達を失った。教会や学校でたくさんの友達ができたけど、やっぱりペオンビレッジで過ごした時の友達がいいに決まってる。
「長らくのご乗車、お疲れさまでした。まもなくサイカ、サイカ、終点です。お出口は左側です。列車がよく停まってからお降りください」
前の駅を過ぎると、ジーダは立ち上がり、扉の前に立った。サイカ駅まであと少しだ。あと少しで牧師さんに会える。
正午ぐらい、夜行急行はサイカシティの中心駅、サイカ駅に着いた。列車がよく停まると、扉から多くの乗客が降りてきた。いつもより多い。今日は何かがあるようだ。
ジーダは白い吐息を吐いた。今日も寒い。
ジーダは駅から出た。今日はいつもより多くの人が行き交っている。
「ジーダ、久しぶりじゃないか?」
突然、後ろから男が声をかけた。ジーダを育てた牧師、聖クラウドだ。
「クラウドさん、お久しぶりです」
ジーダはお辞儀をした。自分を父のように育ててくれた牧師だ。感謝せねば。
「元気にしてたか?」
「はい」
「それはよかった」
ジーダの元気な姿を見れて、クラウドは嬉しかった。ここに来てから一度もサイカシティを離れた事がない。リプコットシティで何かがないか心配にしていた。
「新しい生活はすっかり慣れたか?」
「うん」
ジーダは笑顔で答えた。毎日が本当に楽しい。自由に遊んで、勉強して。教会にいた頃とはまた違う世界が見えた。
「高校生活、どうだ?」
「楽しいよ」
ジーダは高校での生活を楽しんでいた。友達がいっぱいできて、楽しい日々を送っていた。
「あっ、そうそう。今日、任命式があるんだけど、見るかい?」
「うん」
このサイカシティにある聖クライド魔法学校では、聖魔導に任命された3人の子供が校長から聖衣(せいい)と聖帽(せいぼう)を授かり、聖魔導としての誓いを立てる神聖な儀式だ。毎年多くの人が聖魔導の誕生を見に来る。ジーダはその儀式を見たことがなかった。
ジーダとクラウドはクラウドの運転する車に乗って聖クライド魔法学校に向かった。聖クライド魔法学校はここから更に北に向かったノーザと呼ばれているところにある。そこには最北の集落があった所で、この近くには時の最高神、アグレイドがいると言われている。
10分走って、車は聖クライド魔法学校に着いた。今日はいつもより多くの人が来ている。年に一度の大祭で、世界平和を守る使者、聖魔導の誕生という事で、一段と盛り上がっている。今日のサイカ駅がいつもより賑わっているのはこの大祭のためだ。
2人は聖クライド記念講堂にやって来た。サイカシティで一番大きい講堂で、世界屈指の客席数で知られる。入口の前には銅像がある。この聖クライド魔法学校を創立した聖バゾス卿ことバズ・ライ・クライドだ。聖衣と聖帽を身にまとい、杖を天高く掲げている。
「多くの人が来てるね」
ジーダは驚いた。こんなにも多くの人がこの町に来るんだな。とても普段のサイカシティとは思えない。
「そりゃあ、世界の平和を守る使者の誕生だからね」
クラウドは笑顔を見せた。今年はどんな聖魔導が誕生するんだろうか? 楽しみだ。
「牧師さんも聖魔導なんでしょ?」
「うん、そうだけど」
ジーダの育ての父のクラウドは40年ぐらい前に聖魔導に任命された。神から教わった思いを受け継ぎ、教会で牧師をしている。
「相当優等生じゃないと慣れないんだよね?」
「うん、学年末テストで成績の良かった3人しかなれないんだよ」
クラウドは学年末テストで1位となり、聖魔導に任命された。
「ふーん」
ジーダは驚いた。まさか、クラウドが聖魔導だったとは。
「それに、将来悪に手を染めないかを判断されるんだ」
「へぇ」
2人は講堂に入った。中には多くの人がいた。
しばらくすると、3人の少年がやって来た。今年、聖魔導に任命される子供達だ。少年たちは真剣な表情だ。これから自分は神の洗礼を受け、世界の平和を守る聖魔導の力を与えられる。
「あっ、来たぞ」
「この子達か?」
「うん」
2人はその姿をじっと見ていた。彼らは間もなく神の洗礼を受け、世界に平和をもたらす聖魔導としての力を受け取る。
3人の少年は校長から聖衣と聖帽を着せられた。彼らはとても嬉しそうだ。とても名誉のある魔導士に任命される。ここまで育ててくれた家族に感謝していた。
3人はステージの中央に立つと、持っていた杖を高々と掲げた。まるで聖バゾス卿の銅像のように。すると、杖は天から降り注ぐ光に包まれた。その時杖は、聖魔導の力を与えられている。
「我ら、今日、神の祝福を受け、聖魔導に任命されたり。我ら、いつの日か邪悪なる神蘇りし時、その力を解き放ち、世界を救いたり」
「新しい聖魔導の誕生だね」
「うん」
2人は嬉しそうな表情を見せた。今年もまた世界の平和を守る聖魔導の誕生だ。彼らがいる限り、世界の平和は守られる。そう思うと、2人は嬉しくなった。
夕方、2人は教会に帰ってきた。その教会はサイカシティと少し離れた所にある。屋根の上には十字架が飾られている。大きな建物で、この周りの民家と比べるとよく目立つ。
2人は裏口の扉を開け、中に入った。関係者や孤児はここから教会に入る。
「ただいまー」
すると、1人の少年が声をかけた。この教会で住んでいる孤児の1人、ドリーだ。5歳でここに来て、まだ2年目だ。ジーダとはとても仲がいい。
「ジーダお兄ちゃん、久しぶりー」
ドリーは笑顔を見せた。久々に会えて嬉しそうだ。
「ああ。ドリー、元気にしてたかい?」
「うん」
ドリーは今年から小学校だ。初めての学校。ドリーはとても楽しみにしていた。たくさん友達を作りたい。いろんな事を学びたい。
「そうか、小学校、楽しくやってるか?」
「うん!」
ドリーは小学校でたくさんの友達ができた。とても充実した1年だ。親に捨てられて、孤独だった今までとは違い、とても楽しい日々だ。
「それはよかった」
「あのね、友達いっぱいできたんだよ」
ドリーは嬉しそうだ。小学校に行くのが楽しい。
「それはそれは。楽しいだろうな」
そこに、ベニーもやって来た。ベニーは10年前にここに捨てられていたのをクラウドを見つけ、以後、教会で育てた。ベニーは優等生で、世界一の魔法学校と言われる聖クライド魔法学校に通っていた。そして今年、卒業式を迎え、地元の私立中学校に進学する予定だ。
「ジーダお兄ちゃん!」
ベニーも嬉しそうな表情だ。数か月ぶりにジーダに会える。優しくて、面倒見のいいジーダは、どの年下の子からも好かれていた。
「ベニーじゃないか!」
「ふふっ、素敵だろ?」
ベニーは嬉しそうに持っていた聖衣を見せた。実は、あの任命式で、ベニーはステージにいた。ベニーは今年、新しい聖魔導に任命された。
「ま、まさか、聖魔導に任命されたのか?」
「うん!」
ベニーは聖衣と聖帽を着た。ベニーは1回回って、3人にその姿を見せた。3人はみんな嬉しそうだ。
「まさか、今さっきの任命式にベニーがいたとは」
「ベニーは頑張り屋で、優等生だったので、聖魔導に任命されたんだよ」
クラウドは自信気だ。聖魔導の自分が聖魔導を育てた。その力を後世に引き継ぐことができた。
「まさか、教会に住む子供から聖魔導が誕生するとは」
「僕もびっくりしてるよ」
2人は教会の中に入り、2階に向かった。今日からしばらくここで泊まる予定だ。ここに引き取られてからたびたびここで過ごしたが、リプコットシティの高校に入学してからはこの時期しかこの部屋に入らない。
ジーダはかつての自分の部屋に入った。部屋はそのまま残っている。いつかジーダが戻ってくる時までそのままにしていた。
ジーダは持ってきた荷物を部屋に置いた。ジーダは窓からその景色を見た。子供の頃から見慣れてきた景色だが、高校に入ってから見ることは少なくなった。ジーダは懐かしそうに窓からの景色を見ていた。
「この景色、懐かしいな」
「そうだろ?」
しばらく外の景色を見ると、ジーダは下の聖堂にやって来た。ジーダは空いている席に座り、女神竜サラの銅像を見ていた。
「どうした?」
「リプコットシティで巨大な女神竜の像を見たんでね」
ジーダはリプコットシティに来て間もなく、休日に女神竜の巨像を見た。女神竜の銅像は教会で度々見ていたが、これほど大きな像は生で見たことがなかった。リプコットシティの観光案内には必ず書いてある名所で、毎年多くの観光客が訪れる街のシンボルだ。
「素晴らしいでしょ」
「うん」
ジーダは女神竜サラの姿に感動し、10年前に祠で見た女神竜サラの事を思い出した。確かにこんな姿だった。本当に会えるなんて思いもしなかった。でも、どうして見ることができたんだろう。
「今からちょうど200年前、この世界が巨大な悪に包まれた時に、4人の仲間とともに世界を救ったサラを記念した銅像だよ」
「ふーん」
クラウドは女神竜サラとその仲間がこの世界を救った時の事や、この巨像ができるきっかけを知っていた。クラウドはその話を子どもの頃から度々聞いていて、語れるぐらいだ。
「信じがたいんだけどな」
だがクラウドは信じがたかった。とても作り話のようだ。
「でも、聖魔導はそれに関連してるんでしょ?」
「うん。でも、聖クライド魔法学校の創立者で、サイカシティを発展させたバズ・ライ・クライドは魔獣の英雄の1人だったと言われているんだ」
だが、本当にあった話じゃないかと思える事実があった。その話を学校の授業で習った。そう思うと、赤竜伝説は本当にあったんじゃないかと思うぐらいだ。
「そうなんだ」
「だとすると、本当にあった話だと思うだろ?」
「うん」
ジーダは考えた。赤竜伝説は本当にあったんだろうか? バズ・ライ・クライドが魔獣の英雄の1人だったとすると、赤竜伝説は本当の話じゃないかな? あの壁画も、女神竜サラの話も、全部本当にあった事じゃないかな? だとすると、今年が王神龍の復活する年。なのに封印しなければならないのに誰も動こうとしないんだろう。
その夜、ジーダは夢を見た。そこは6歳の時に訪れた祠だ。ジーダは懐かしそうに辺りを見渡していた。今はどうなっているんだろう。女神竜の部屋は荒らされていないだろうか? ジーダは心配になった。
「ジーダ、ジーダ。今すぐペオンビレッジに来てください。私はあなたを待ってます」
誰かの声が聞こえる。ジーダは辺りを見渡した。だが、誰もいない。ジーダは首をかしげた。
「だ、誰?」
「女神竜サラです」
突然、目の前が明るく光った。目の前には、女神竜サラがいる。その姿はあの時と変わっていない。
「どうして?」
「祠に来たら話します。来てください」
女神竜サラは消えていった。ジーダは呆然とした。どうして行かなければならないんだろう。ジーダはその場に立ちすくんでいた。
ジーダは目が覚めた。寝室だ。今夜もサイカシティはしんしんと雪が降っている。最近こんな夢を見てばかりだ。一体何だろう。
ジーダは外に出て、ペオンビレッジの方向を見た。あの祠に行くべきだろうか? きっと封印が解かれる王神龍に関する重要なことだろうか? だとすると、世界の命運にかかわる重要な話をされるんじゃないか?
朝になり、ジーダは目を覚ました。ジーダは久しぶりに教会で1夜を明かした。進学する前は毎日のようにここに寝泊まりした。
今朝のサイカシティは雪が降っていない。晴れ空が雪原を美しく照らす。子供たちは雪合戦をし、大人は雪かきをしている。
ジーダは教会の入口から出た。まだ人はまばらだ。聖堂には誰もいない。辺りは静かだ。
ジーダは気晴らしに空を飛ぼうと思った。ジーダは黒いドラゴンに変身した。10年の歳月の中で、ジーダは大きく成長した。体も羽も大きくなり、人間や魔族を乗せて空を飛ぶことができるようになった。
ジーダは空を飛び、空からサイカシティを見た。空高く飛べるようになってから、晴れた日は毎日のようにサイカシティを飛んでいた。リプコットシティに住み始めてからは、リプコットシティを毎朝飛ぶようになった。サイカシティを飛ぶのは久々だ。リプコットシティとは違い、美しい雪原が素晴らしい。ジーダは嬉しそうに見ていた。
数分飛んで、ジーダは地上に戻ってきた。教会の入口には、クラウドがいる。
「おはよう」
クラウドは笑顔を見せた。クラウドはジーダが雄たけびを上げながら空を飛ぶのを見て、目覚めたようだ。
「おはようございます」
ジーダはお辞儀をした。クラウドにおはようと言われるのは久しぶりだ。懐かしい。
「よく眠れた?」
「うん」
2人は教会に戻った。これから朝食だ。ここでの朝食も久々だ。
2人は他の孤児と共に朝食を食べていた。ジーダは懐かしい気持ちになった。ここに住んでいた頃は毎日のように食べていた。だが、リプコットシティで住み始めてから、パンだけだ。
「ここでの朝食も懐かしいな」
「そうだろ」
ジーダはここ最近見ている女神竜サラの夢を話すことにした。それをたびたび見て、自分はペオンビレッジに行くべきじゃないかと思い始めた。嫌な思い出があるけど、行くべきだろうか?
「クラウドさん」
「どうした?」
クラウドはジーダを見た。食事中に何だろう。食事中はあんまり話さないのに。
「女神竜サラって、ご存じですか?」
「ああ、知ってるさ。あの銅像のドラゴン。世界を救った英雄のリーダーだったドラゴンだよ」
クラウドは聖堂の方を見た。お祈りしているし、昔話を知っている。
「夢の中で、僕に語りかけてきたんです」
「ふーん」
クラウドは、夢の事が気になった。どうして女神竜サラが話しかけているんだろう。何か重要な事があるんじゃないのか?
「ペオンビレッジに来てくださいって」
「そっか」
ジーダはサラに出会った日の事を思い出した。今も覚えている。あの後起こった悲劇も含めて。
「村が焼き払われた日、僕は女神竜サラを見たんだ」
「本当か!」
クラウドは驚いた。神の姿が見えるなんて。聖魔導しか見えないはずなのに。聖魔導じゃないジーダが見えるなんて、普通ではありえない。
「うん。って、どうして驚いてるの?」
「普通の人では見えないはずだ。どうしてだろう」
クラウドは首をかしげた。ジーダは一体何者だろう。聖魔導じゃないのに見えるなんて。
「それ、幼馴染のテッドも言ってたんだ」
テッドの名前を言うと、ジーダは泣きそうになった。あの日、男と戦って、帰ってこなかった。おそらく死んだだろう。
「ど、どうした?」
「テッドの事を思い出して」
クラウドは泣きそうなジーダの肩を叩いた。
「そっか。でも、どうしてジーダには見えるんだろう」
「僕もわからない」
あの時、女神竜サラがどうして見えたのか。テッドには見えなかった。女神竜サラが見えるテッドはどうして驚いていたんだろう。
「きっと何か秘密があるはずだ」
クラウドは何か予感がした。ジーダは何かを持っている。いつか、その理由がわかるはずだ。
「僕もそう思う」
「女神竜に会ったのはペオンビレッジから遠く離れた所にある祠なんだ。そこには、赤竜伝説の壁画があるんだ」
ジーダはその祠の事を詳しく話した。こんな所にどうして女神竜サラに会える祠があるんだろう。
「赤竜伝説か・・・、本当にあったとは」
「僕も信じられません」
2人とも信じられなかった。だが、バズが英雄の1人だったと聞くと、本当じゃないかと思ってしまう。
「赤いドラゴンの名前は、サラ・ロッシ、4人の英雄の名前は、マルコス・レオンパルド、サムソン・マクワルド・アダムス、レミー・霞・玉藻、そしてバズ・ライ・クライドだ」
「そっか」
ジーダは赤竜伝説は本当か、それとも作り話か知りたくなった。もしそうだとすると、今年が王神龍の蘇る時。何としても封印しなければ。
「とりあえず、ペオンビレッジに行ってみなさい」
「わかりました」
ジーダは10年ぶりにペオンビレッジに行くことにした。もう迷いはない。10年ぶりに故郷に戻る。ペオンビレッジはどうなっているんだろう。新しい人が来て、村を再建させたんだろうか? それとも、誰も人が来ずに、ただの荒野になっているんだろうか?
食べ終わったジーダは外に出た。ジーダは空を見上げた。あの空の先に、失われた故郷がある。一体、どうなっているんだろう。祠は無事だろうか? 女神竜サラはまだいるんだろうか? とても気になる。
「行くのか?」
「うん」
ジーダは後ろを振り向いた。クラウドがいる。行こうとしているのが、クラウドには見えた。
「気を付けてな」
「ああ」
ジーダはドラゴンに変身し、ペオンビレッジに飛んで行った。その時ジーダは知らなかった。ペオンビレッジに向かう事が世界を救う英雄となる道に続いているとは。
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