第2話 消えた人々

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 2人は辺りを見渡した。だが、誰もいない。頂上も静かだ。昨日の賑やかさは何だったんだろう。まるで嘘のようだ。 「誰も登る人いないな」  太一は拳を握り締めた。連れ去った奴らが許せない。どこに行ったんだろうか? 今すぐ連れ戻したい。 「どこに行っちゃったんだろう」  その時、2人の後ろから男がやって来た。捕り逃したと思われる。男の足はよぼよぼだ。疲れていると思われる。 「あっ、誰かいる!」  太一が後ろを振り向くと、男がいる。まだ残っている人がいるとは。太一は驚いた。 「本当だ!」  それに気づいて、真由美も後ろを振り向いた。人がいる! 「大きな飛行船がやってきて、みんなさらっていった」  男は泣いていた。一緒に山を登った妻と子供たちがさらわれた。どうしてこんなことにならなければならないんだろう。こんなの悪夢だ。夢から覚めろ! 心の中で願っていた。だが、これが現実だ。 「そんな・・・」  真由美は呆然とした。今さっき戦ったドラゴンはその飛行船の乗組員だろうか? 「戻ろう」  その時、緑の龍がやって来た。それを見て、太一は驚いた。海斗だ。実家にいるはずの海斗がどうして来たんだろう。太一は首をかしげた。 「海斗!」  その声に反応して、真由美も海斗を見た。 「ど、どうしたの?」  真由美も驚いた。どうして海斗が来たんだろう。 「村が襲われた。焼き討ちでまるで火の海だ」  山に降り立った海斗は汗をかいている。全速力で焼き討ちから逃げてきた。道の駅にいるスエを除いて、海斗しか生き残っていない。 「そ、そんな!」  太一は呆然となった。こんなことが起こるなんて。今さっきまで元気だった家族がみんな死んじゃったなんて。信じられない。夢だと信じたい。でもこれは現実だ。 「早く行こう!」  太一と真由美は海斗の背中に乗って集落に戻ろうと思った。スエはどうなったんだろう。太一は心配だ。家族はどうなったんだろう。真由美は心配だ。 「おじさんも乗って!」  3人は考えた。疲れ果てた男も海斗の背中に乗って下山させよう。 「ありがとう」  3人は海斗の背中に乗った。海斗は宙に浮き、一気に山を下りた。目指すは焼き討ちに遭った集落だ。スエは無事だろうか? 家族は無事だろうか?2人は気がかりだ。  4人は集落にやって来た。4人は空から集落を見下ろした。海斗の言うとおり、集落は焼き討ちに遭っていた。4人は呆然としていた。とても現実じゃない。これは地獄だ。 「町が破壊されてる!」 「信じられない! これは夢じゃないの?」  真由美は泣きそうになった。太一は真由美の肩に左手をかけた。泣かないで。僕が幸せにするから。 「いや、これが現実なんだ」  太一は右手を強く握りしめた。誰がこんなことをやったんだ。まさか、登山客を連れ去った奴らだろうか?  海斗は廃墟と化した集落で1人の老婆を見つけた。スエだ。この日は道の駅で体験指導をするために朝早くに出かけたはずだ。だが、集落が焼き討ちに遭ったと聞いて、急遽やって来た。  スエは肩を落としている。早朝までの光景がまるで嘘のようだ。とても信じられない。どうしてこんな目にあわなければならないんだ。 「お、おばあちゃん!」  スエに気付くと、海斗は急降下した。太一と真由美も驚いた。  海斗は廃墟と化した集落に舞い降りた。3人は海斗の背中から降りた。太一はスエに抱き着いた。スエが無事でよかった。 「たっちゃん、大丈夫だったか?」  スエは太一を心配していた。ひょっとしたら、山で殺されたんじゃないかと思った。 「うん」  太一は悲しそうな表情だ。スエ以外、家族みんな失った。これから登龍門はどうなってしまうんだろう。 「町がみんな破壊されてもうた。わしと海斗とたっちゃんを残して家族はみんな死んじゃった」  スエは泣き崩れた。あれだけたくさん家族がいたのに、生き残ったのは海斗と太一だけだ。こんなことがあっていいのか? とても現実を受け入れられない。 「だ、誰が破壊したの?」  太一は泣き崩れるスエを慰めた。太一はより力強く拳を握り締めた。集落を焼き討ちにした奴、絶対に許せない。自分の手で叩き潰してやる! 「よくわからんが、ワンボックスカーがこの集落からものすごい速さで出てきたのぉ。ひょっとしたら、そいつわじゃないかな?」  通報を受けて車で家に帰る途中、スエは集落の入口で不審な男を見ていた。スエは素通りしたが、後で思ったら、ひょっとして、こいつらが燃やしたんじゃないかなと思った。 「そんな・・・」  海斗も肩を落とした。家族があっという間に失われるなんて。こんなの夢だと教えてくれ! 「店も?」  太一は店の事が気になった。店のある駅前も焼き討ちに遭っていないだろうか? 「ああ・・・」  スエは集落に戻って、駅前の様子を見た。すると、駅前からも火が上がっているのが見えた。おそらく駅前も焼き討ちに遭ったと思われる。 「家族をみんな殺しやがって、許せない!」  太一は怒っていた。家族が守ってきた店が一瞬にしてなくなってしまった。許せない。自分の手で懲らしめてやる! 「その気持ち、わかるわ」  真由美は太一の気持ちがわかった。一瞬にして家族も店も失った。 「おばあちゃん、家族の仇、俺が討つから」  太一は決意した。この村で焼き討ちをした奴ら、絶対に許さない。自分の力で懲らしめてやる! 「そうかい。気をつけてな!」 「たっちゃん、気をつけてね!」 「ああ」  3人は太一と男を見送った。太一は元気に手を振り、3人の声援に応えた。必ず奴らを懲らしめて戻ってくる。そして、この村を復興させるんだ。  10分後、2人は駅前にやって来た。駅前も焼け野原になっている。登龍門も、土産物屋も、駅舎も何もかもなくなっていた。だが、レールはそのままだ。何事もなかったかのように列車が駅を出て行った。  太一は立ち止まり、茫然とした。昨日まであんなに賑やかだった駅前がこんなことになるなんて。とても信じられない。だが、これは現実だ。彼らが焼け野原にしたんだ。絶対に許せない。自分の手で懲らしめてやる!  男は泣きそうになった。昨日訪れた駅前がこんなことになるなんて。登龍門でそばを食べた昨日がまるで嘘のようだ。 「た、たっちゃんか?」  2人は後ろを振り向いた。ボロボロの服を着た男がいる。太一は驚いた。その男を知っている。登龍門の従業員の中で一番のベテラン、滝越さんだ。滝越は服はボロボロだが、けがはしていない。何とか逃げることができたようだ。 「うん」  太一は首を縦に振った。滝越はほっとした。将来、この店をしょって立つ太一と海斗が生きていた。それだけでも嬉しかった。従業員はみんな焼き討ちで死に、生き残ったのは滝越だけだ。 「滝越さん! よかった、生きてたんだ!」  太一は嬉しかった。誰も生き残っていないんじゃないかと思っていた。これから登龍門はどうなるんだろう。 「ああ。神龍教だ。神龍教の奴らがやった」  滝越は神龍教の事を知っていた。200年前、世界を作り直し、人間を絶滅させようとした。彼らの神、王神龍が封印され、その宗教も忘れ去られたという。だが、今年は王神龍が蘇る年。徐々に神龍教も蘇ってきた。 「神龍教・・・」 「そうだ」  太一は拳を握り締めた。神龍教の事は知っていたが、また現れるとは。 「絶対に許さない」 「その気持ち、わかる」  滝越は太一の肩を叩いた。滝越は太一の気持ちがわかった。自分たちの店が一瞬にして奪われた。これほど悔しい事はない。悲しい事はない。あいつらが許せない。自分の手で懲らしめてやる! 「俺、あいつらをやっつけに行くから」 「そうかい。気を付けてな」  滝越は止めようとしなかった。今、最後の希望は太一しかいない。この村の、登龍門の命運は太一にかかっている。必ず帰ってきて、この村を、登龍門を復興させるはずだ。 「行ってくるからね」  太一は駅で切符を買い、ホームに立った。駅は駅舎を失い、生き残った係員が手で切符を売りさばいている。2人は太一をじっと見ていた。必ず帰ってこい。そして、この村を、登竜門を復興させてくれ。 「頑張ってきてぇな!」 「うん」  しばらくすると、2両編成の気動車がやって来た。気動車には何人かの人が乗っている。彼らは変わり果てた町を見て驚いている。  構内に入ると、気動車は汽笛を上げた。気動車はゆっくりとホームに入った。この駅のホームは多客時に備えて長くなっている。2両編成の気動車では持て余してしまう。  気動車の扉が開いた。誰も降りない。みんな車窓を見ているだけだ。  太一は気動車の中に入った。車内の床は木目調で、緑のモケットのボックスシートが並んでいる。中は冷房がかかっていて、涼しい。  気動車はなかなか発車しない。行き違い待ちと思われる。腕木式信号機は赤だ。 「じゃあ、行ってくるね」  太一は窓を開け、2人に手を振った。2人は笑顔で答えた。  その直後、反対側から気動車がやって来た。3両編成で、ある程度客が乗っている。気動車は向かい側のホームに停まった。だが、誰も乗り降りする人はいない。  腕木式信号機が青に変わった。2本の気動車はほぼ同時に駅を発車した。2人は手を振って太一を見送っている。太一はその様子をじっと見ている。必ずあいつらを懲らしめて、帰ってくる。それまで元気でいてくれ。  太一は後ろの気動車のデッキから村を見ていた。がれきしか見えない。昨日まではあんなに建物があったのに。何もかもなくなってしまった。  気動車は構内を出るとすぐに、鉄橋で深い谷を越えた。その下には誰もいない。いつもだったら遊んでいる人がいるのに。あれもこれも、神龍教のせいだ。彼らを呼び戻すためにも、懲らしめなければ。  鉄橋を超えるとすぐに、トンネルに入った。入口はレンガ積みで、年季が入っている。気動車はトンネルの中に消えていった。そして、気動車から村が見えなくなった。  太一は後ろの気動車のデッキからその様子を見ていた。村は徐々に小さくなり、やがて見えなくなった。自分が帰ってくる頃には、この村はどうなっているんだろう。  太一は客室に戻り、持ってきた家族の写真を見た。今朝だけでスエと海斗を残してみんないなくなった。どうしてこんなことにならなければならないんだろう。全部あいつらのせいだ。自分が何倍にして懲らしめてやる! そしてこの町を復興させるんだ。  気動車が長いトンネルを抜けると、そこは深い渓谷だ。気動車は渓谷沿いを急カーブで走っていく。その下では水遊びをする家族連れがいる。だが、いつもより少ない。こんなことがあって、みんなおののいているんだろうか?  しばらく渓谷沿いを走ると、駅に着いた。だが、誰も乗り降りしない。閑散としている。いつもだったらどれだけの人が来るんだろうか?  気動車が駅を出ると、再びトンネルに入った。その先は真っ暗で、何も見えない。太一にはその暗闇が今のむらの状況に見えてきた。焼き討ちで何もかも失い、今は暗闇のようだ。だが、必ず自分が賑わいを取り戻す! そば屋を再建させる! そのためには神龍教を懲らしめないと!  トンネルを抜けると、気動車は左に大きなカーブを描き、大きな築堤を一気に下った。青空が見え、車窓が明るくなる。神龍教を懲らしめて、復興した村の未来は、この青空のように明るく輝いていてほしい。そう思いつつ、太一は流れる車窓を見ていた。  目指すはクラの港。次の駅で特急等を乗り継いで、クラ駅を目指そう。そこからフェリーに乗り換え、そこからインガーシティを目指そう。インガーシティの辺りにあるアカザ島がかつて神龍教の居城だったと聞く。そこに行けば何かがわかるかもしれない。必ず神龍教の本部を探し出して、懲らしめないと!
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