プロローグ

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プロローグ

「いらっしゃいませー、お好きな席へどうぞ」  まず僕が気に入っているのは、「いらっしゃいませー」の後に普通なら必ず続く「〇名様ですね」もしくは「何名様ですか?」というセリフが皆無であることだ。  ここはシングルレストラン。その名の通り、お一人様向け、否、お一人様しか入ることが許されないレストランだ。  ここで言う“お一人様”とは、一人で来た客のことでもなければ、独身者のことでもない。友人も家族もいない、正真正銘の“お一人様”のことである。  僕は子どもの頃に両親を亡くし、祖父母に育てられた。祖父母はずっと元気でいてくれて、僕が29歳の今はもう天国で幸せに暮らしている。  もともと一人が好きだった僕は、友人と呼べる人間を作らなかった。良いのか悪いのか、ある程度のことは何でも一人でできてしまい、人に頼る必要性を感じることもなかった。彼女もいたことはないし、欲しいと思ったこともない。もちろん結婚願望もない。  このレストランには、さまざまな理由で僕のように“一人”で生きている人達がやって来る。
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