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浩一郎は、二番目の妻の連れ子だった。妻が亡くなったあとは、浩一郎と養子縁組して、正式な息子として育ててきた。歳は二十一歳で、いまは他県の大学へやっている。
三番目の妻の彩乃は二十八歳。小柄で細い体つきの、美女、というより、美少女、といった風貌だ。
一方、夫である蔵平は七十一歳。不動産をいくつも持つ資産家である。二週間前に家で意識を失い、病院に救急搬送された。検査してみると、脳に炎症が広がっていて、もはや回復の見込みはなかった。
その蔵平を前にして、浩一郎などは、
――くそっ、ぼくが殺してやりたかった。
などと暴言を吐いたものだ。
かたわらにいた彩乃は、そんな息子をたしなめるどころか、
――気持ちはわかるけど……。
と、浩一郎に同調するそぶりさえ見せるではないか。
蔵平は怒った。
怒ったが、いまは指一本さえ動かすことができない。
そして、自分が指一本動かせないまま死んでいく、ということも自覚していた。
頼みの綱は、死んでからの十五分だ。
蔵平はそこに望みをかけていた。
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