十五分

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◇◇◇ 「死後、十五分だけ動けるようになさいませんか?」  信頼できる知人から紹介された、「自称発明家」の男は、そう言って蔵平を誘った。  生きているうちに、その人の意識と生体エネルギーを、クラウド上に蓄えておく。死んだことを検知すると、すぐさま蓄えたエネルギーを放射して、十五分間だけ、死体を動かす、という仕組みらしい。  価格は一億円。 ――一億も使って、十五分ぽっち生き返っても、しょうがないだろう。  そう答えた蔵平に、「自称発明家」は反論する。 ――いやいや、そうでもないのです。家族と最後のお別れの言葉を交す、とか、残された家族に秘密の口座を教える、とか、資産の使いかたをきっちり指示しておく、とか、十五分という限られた時間でも、けっこう重宝(ちょうほう)する、と考えるかたは少なくありませんよ?  そう聞いても蔵平は、そんなものかなあ、と半信半疑だった。  しかし、どのみち墓場までお金を持っていけるわけではない。十五分だけでも生き返ることができるなら、確かに一億円は安い買い物かもしれない。  考えなおした蔵平は、「自称発明家」と契約した。  したがって、死ねば、十五分だけだが、動けるはずなのだった。
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