十五分

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「死ねっ」 「お前こそっ」  浩一郎と蔵平は、床に転がった状態で、互いに互いの首を絞めあった。いまは浩一郎のほうが上になって、蔵平の首を絞めているが、蔵平もまた下からではあるが、浩一郎の首を持ちあげるように絞めているのだった。  ふたりの顔は充血してまっ赤にふくれている。  もはや、ふたりとも息が絶えるかと思われた。  彩乃が悲鳴をあげようとした。  そのとき、ふいに――。  本当にふいに――。  蔵平の手がゆるんだ。  彼の手は、浩一郎の首をはなれ、重力に従って落下しはじめる。  蔵平は白目をひんむいた。首ががっくりとうしろにたれ、リノリウムの床に当たって、にぶい音をたてた。 「あ……」  浩一郎は我に返って手をはなした。  蔵平の首が支えを失って斜めを向き、それきり動かなかった。うらめしげに目を開いたその顔には、もう生気がない。 「ああ……」  浩一郎はもう一度うめいた。信じられないものを見るように、自分の両手の手のひらを見おろした。 「ぼ……ぼくが、殺した……のか?」  病室のなかに沈黙がおりた。空気が張りつめている。  風船のように張りつめたそれを破るように、医師が声をかけた。 「いいや、そうじゃない。この男は先ほど、もう死んでいたんだよ」  浩一郎がふり向くと、医師がようやく起きあがっていて、壁の時計を目でさし示した。  八時三十八分。  蔵平が死んでから、十五分がすぎていた。                               〈了〉
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