十五分

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 緒方(おがた)蔵平(ぞうへい)には、もう意識がない。  ……と、誰もが思っていた。  医師もそう言って、見放している。病室のベッドに横たわるこの患者は、口と腕に(くだ)をつながれ、意識不明のまま、死ぬのを待つばかりだ、と。  だが本当のところ蔵平は、目をあけられず、身体を動かすことができないまでも、耳だけは聞こえているのだった。  もちろん、息子の浩一郎(こういちろう)と、三番目の妻の彩乃(あやの)が、見舞いと称してやってきては、個室をいいことにいちゃつく様子も、ちゃんと聞こえていた。 ――だめ、だめよ、浩一郎さん。 ――いいじゃないか。ぼくはもう我慢できないよ。 ――だめったら。 ――彩乃さん。 ――もう、悪い子なんだから。お願い。ほかのところで、ね?  そして、そのあとのふたりの、うふふふ、という甘やかなひそひそ笑いさえ、聞き取れるのだった。
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