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3話
あれから数日が経過し、俺は元気に大学へと通っていた。
唯一不満があるとすれば、それは昼になると天王寺が決まって現れることだった。『お互い謝罪したし、水に流しましょう』と言ったけど、返ってきた返答は『まだ私の気は晴れてはおらぬ』とか言い出して、どうあっても俺に会いに来るんだ。
「姫はおるか」
「姫って呼ぶなっての」
今日も俺の大っ嫌いなその名を大声で呼びながら、天王寺が食堂へやってくる。
もちろん普段こんな場所に足を踏み入れるような人ではないため、全員が振り向く。だが、俺を見つけた天王寺はそんな視線など気にも留めず、ズカズカとやってくる。
「本日はプディングを用意した」
これがこいつの誘い文句。
あの時、ケーキを食べてしまったのがいけなかったのか、天王寺は決まってデザートを餌に誘いに来る。
この前はマカロンで、その前日はどら焼きだったと思う。
本当になんなんだ、こいつは。
「行かない」
「プディングが気に入らぬと……」
「そうじゃなくて、俺に構わないでください」
頭を下げた。
これ以上、関わりたくないんだと、丁寧にお願いをした。
手の届かないような会長と仲良くしてるなんて、周りの視線が痛すぎて。天王寺と仲良くなって、自分だけ贔屓にしてもらうんじゃないかとか、特別扱いしてもらうんだろうとか、そんな視線が怖すぎるんだ。
だから、もう関わりたくないのが本音。
それなのに、
「何ゆえに、そのようなことを申すのだ」
肩を掴まれて、必死な声を出された。
「お付き合いの話も、断ったよな」
そう、付き合ってほしいなんて男から告白を受けて、即答で「ごめんなさい」と、お断りしたはずなんだ。
「傍に居れば、好きになるやもしれぬ」
「ならない」
「そなたの分まで、私が愛す。ならば問題ないではないか」
この時代錯誤な言葉遣いと、理解不能な思考回路に、俺は怒りよりもため息しか出てこない。
何を言っても、天王寺には俺の言葉が通じないからだ。
「何度も言うけど、俺も天王寺も、男なんだって!」
天王寺がしつこすぎて、言葉も通じなくて、だから敬語なんか忘れて、俺は年上とか先輩とか会長とかそんなこと一切考えてられなくて、もう全力。
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