3.真理、中学二年の冬(1)

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3.真理、中学二年の冬(1)

「あんたの母親はあんたを棄てたの。もういらないんだってさ」  祖母は幼い私にそう繰り返した。でも私は信じなかった。母さんがそんなこと言うはずがない。私は母が迎えに来てくれるのをひたすら待ち続けた。ちっとも懐かない孫を次第に祖母はもてあますようになる。自分も女だというのに「これだから女は嫌なんだよ。どうして息子を産まなかったんだろうね、あの女は」が口癖だった。衣食住に不自由することはなかったが楽しいことなんかひとつもない生活。  学校に通うようになると少しはマシになった。でも祖母は私が友達と遊びに行くことを絶対に許そうとせず習い事もさせない。 「あんたがこの先できるのは結婚して子供を産むことだけだよ。男の子、男の子を産むんだ。将司に似た曾孫をね」  高校に進学する必要もないという。 (私、何のために生きてるんだろ)  いっそ死んでしまおう、そんなことを思ったのは中学三年生になるまで残り数か月のことだった。あと一年ちょっとで私の学生生活は終わり祖母の決めた得体の知れない男と結婚し子を産む……。冬空の下、暗澹たる気持ちで街を彷徨った。ふと思い立ち電車に乗り知らない街に行く。あてもなくぶらぶら歩き目についた少し大きな書店に立ち寄った。入ってすぐの所に絵本コーナーがある。見覚えのある装丁の本が目に飛び込んできた。 (ああ、この本。よく母さんが読んでくれたっけ)  懐かしさに思わず涙が溢れる。そっと手の甲で涙を拭い本を手に取った。ゆっくりと頁を捲る。すると背後から声がした。 「真理?」  祖母にみつかったのかとぎょっとして振り向く。
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