4.祖母の独白

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4.祖母の独白

 最近心臓の調子が悪い。春先から薬を飲んでいるがどうにも良くならない。真理も中学三年になったというのにちっとも花嫁修業に身が入っておらず苛々する。まったくあの女が嫁いできてからろくなことがない。まず夫が亡くなった。続いて将司まで。将司がいる頃はまだあの家には夫の気配があった。だからまた家族三人で暮らそうと将司を呼んだのだ。夫と息子がひとつになって私を見守ってくれているような、そんな気がしたものだ。なのに将司が亡くなるとあの家は空っぽになってしまった。将司があの人も連れて行ってしまったのだろうか。私は仕方なくあの家を出て孫を引き取ることにした。今となっては唯一の血縁である真理を。それにはあの女が邪魔だ。ある日、あの女が横断歩道でぼうって立っているのを偶然見かけた。嗚呼、神様ありがとうございます。幸い周りに人はいない。私はそっと近付き……。  残念ながらあの女は死ななかった。まぁいい。首尾よく真理を引き取ることはできた。私は夢を見た。夫と息子が曾孫になって私のところに戻ってきてくれる夢。だからあの娘に早く子を産まさなきゃいけない。さっさと相手を見つけてしまうとしよう。そうだ、親戚に独身の男がいる。年は三十代半ばぐらいだったか。まぁ少し年が離れているが構うまい。将司の従弟にあたるのだからきっと将司によく似た男の子が産まれるだろう。善は急げ。早速電話をかけて見合いの段取りをしておくとしよう。しかし今日は蒸す。お気に入りの扇子を手に取ると優美な香りが漂い昔の家を思い出させた。もう少しだ、もう少しであの頃に戻れる。
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