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 「大友君、トモダチって何だろう」  怜が送ったメール文の冒頭。  一文字一文字、間違わずに打たねばならない。少しでも「ずれた」ことを書いたら、大友優は二度と心を開かなくなるだろう。    トモダチになろう。  「あれ」は、いつもそう言っている。三日月形に唇を笑わせた、「あれ」は、トモダチというものが欲しくて、「嫌われ組」に取り込んだ。学校近くの神社で集まり「この指とまれ」をした時も、「あれ」は混じっていた。トモダチ、そう、トモダチだよね、ね。  くすくす、くす。うふふ。  あぶくがはじけるような笑い方。「あれ」は、決して悍ましいものではなかった。少なくとも、あの当時は。  「仲間になりたいんだって」  「いいんじゃない、わたしたちだって、こんなんだしぃ」  岸辺久美と浜洋子も、顔を見合わせてそう言い合っていた。  小さな姿をした「あれ」は、小学六年の子供の目から見ても、普通ではなかった。もしかしたら人間ではないのかもしれない、と、みんな分かっていたのかもしれない。だけど、「嫌われ組」は、「あれ」の介入を許してしまった。なぜなら。  「みんな、トモダチが欲しかったんだよね。でも、トモダチになれていなかったんだよね」  大友優。  たぶん、「嫌われ組」の中で、一番暗く、救われない闇の中にいた。彼は孤独で、誰よりも自分が劣っていると思い込んでいて、たぶんその思い込みは、実際のことなのだった。  臭くてーー彼の体は実際に、独特のにおいがした。多分、本当にお風呂にはいっていなかったのかもしれないーーとろくて頭が悪くて邪魔くさくてーーそれ以外の言葉では形容ができないくらい、大友優は、そういう存在だったーー汚くてーー大友優はふけだらけで、彼の机にはいつも、細かく白いものが飛んでいた。  ああ。  怜は目を閉じた。  同じだ。大友君と、わたしは同じなんだ。  「嫌われ組」に入るのに、相応しい度合いは、まるで同じなんだ。    殺人犯の怜と、本当に文字通りな状態の、大友優。  「嫌われ組」の四人の中で、本物の「嫌われ者」は、二人だけ。  だから、「あれ」は、大友優と、怜に、より近しくなった。そして大友優は、ついに自分から「あれ」を中に招き入れたのだろう。小学六年の時から、多分、ずっと「あれ」は、大友優の極めて近いところにいた。  「大友君のところに、『あれ』がいるんだよね」    みいなのことを聞きたいが、それは後回しだ。ここでみいなのことを出したら、大友優は絶対に返信をくれないだろう。    「わたしも、『あれ』に会いたい。だから、大友君のところに、行けるだろうか」  トモダチって何なのか。  考えたいから。  だから。  「会いに行くよ。わたし一人で」  今、どこにいるの。教えて。  送信した時、怜は全身に汗をかいていた。  Tシャツまでぐっしょり染みるほどの汗だったので、シャワーを浴びた。バスタオルで体をくるんで出てきた時、床に置き去りにしたスマホがチカチカと光り、メールが来たことを告げていた。怜は唇を噛み、目を強くする。日差しは傾きつつある。夜になる前に、事を済ませたかった。
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