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苦悩の王子
ふう。
鏡に映った自分の髪を見て、ため息をつく。魔力と一緒に髪の色素も持っていかれた感じだ。塔に半日、魔力を吸われてから1日死んだように眠る。
その内目覚めなくなるんじゃないか…
ハッとした。こんなことを思った事はなかった。
死が怖いのなんて…あれだけ望んでいたのに。
「殿下、お目覚めですか?」
「ああ、問題ない」
「今日は、ウィステリア様のお部屋訪問しましょう」
何でイヴァンが嬉しそうなんだ?お前はもう妻が…まさか妻帯者でありながら、彼女に惚れたとか。可能性はあるかもしれない。
規格外の忍姫だ。見ていて面白いし、容姿も思っていたよりずっと良い。
他の令嬢の話は、ほとんど同じ話しかしないが、挑むように話す彼女をもっと知りたくなる。それにあのマラカイトグリーンの瞳も…髪の香りも…笑った顔も…
あれ?待ってくれ、これでは俺が…!
思ってしまうとなぜかドキドキし始める。何だこれは。明らかにおかしい。
「殿下?まだ具合が悪いのでは?今日は止めておきますか?」
「いや、大丈夫だ。イヴァン…なぜか心臓がドキドキするのだが。病気だろうか」
涙ぐむイヴァン。やはり彼女に…
「殿下、おめでとうございます!それは恋煩いと言う病です。殿下はウィステリア様に恋をしているのでずぅ」
神に祈り始める。違うのか…
おめでとう?…そうだとしても、俺となど結ばれる訳がない。
俺は黒髪だ。それに、宰相どもがもう妃を決めているに違いないんだ。
「どうしようもないない話をしたって無駄だ。行くぞ」
そう、無駄なことだ。こうしていたっていつかバレる。次期王が黒髪だって。
媚を売ってくる者どもも、その内手のひらを返していなくなる。
「その気がないなら帰していただきたい」
深紅の瞳が言っていた言葉が蘇る。
彼女は…コーデルに帰って、他の男と幸せな結婚でもすれば…ぎゅうっと胃の上あたりが痛い。以前にも同じことがあったな。
それと同じだ。また、時間が経てば忘れる。
「ジーク殿下…」
俺がこんな顔をするとイヴァンまで暗くなる。黒髪と知っても仕えてくれる稀有な存在。それだけ優秀なら、俺が幽閉されても職を失うことは無いだろう。ヤスケも…何も問題ない。
自分でばらしてやろうか…俺の妃に選ばれてしまう令嬢も哀れなだけ。
妃選びもあと数カ月、どこかでバラして終わらせよう。
そうすれば、傷付くのは俺だけで済む。
彼女は…ウィステリアは俺が黒髪と知ったら、どんな反応をするのだろう…
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