王太子様との婚約より、人を探しています

訓練所

「見たか？あの顔！くくく」

　執務室に入った途端、堪らず笑い声を上げてしまう。訓練所の件だ。ぱっと花が咲くようにキラキラしたマラカイトグリーンの瞳。令嬢が永遠に使わないであろう場所の許可を出した。顔に出るタイプか、案外素直なんだな。いかん、また笑いが込み上げる。

「次は…」

　左手を上げてイヴァンの言葉を遮る。

「訓練所を使うウィステリア嬢を見たい。部屋の訪問は明日にしろ」

　無意識だったと思う。いそいそと訓練所に向かう俺を、呆れた顔でイヴァンとヤスケが見ていた。

　ミリアの案内で着いた訓練場は、がらんとして騎士様もいない。私が使いやすいように人払いでもしてくれたのかしら。木刀や木製のクナイっぽいのが見えて、忍の訓練所だと分かった。

「珊瑚とミリア。相手をしてもらってもいいかしら？」

　珊瑚はやれやれという顔で、ミリアは驚いていた。少しの間考えているようだったけど、自分が騎士だって気付かれた事を悟って、剣に近い竹刀を持って対峙する。

　珊瑚が短めの木刀を持って来てくれた。クナイって言う先にリングがついている投げナイフ。使い込まれている木刀のクナイはすんなり手に収まった。

「徐々に早くしていくから、よろしくね」

　神棚に向かって一礼してから打ち合いが始まる。
　珊瑚は攻撃よりも防御に特化していた。少し本気で打ってもスッと受け流すのよ。素晴らしいわ！
　ミリアは騎士特有の剣で、攻防のバランスがいい。初対面の時も思ったけど、体幹が凄くいいの！強く打ち付けても体勢を崩さなくて。相当身体を鍛えているのが分かる。嬉しくて夕食の時間まで打ち合いが続いた。