ジークの変化

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ジークの変化

「予想以上だったな」    王宮の廊下を上機嫌で歩く。普段から忍を相手に訓練しているミリアでも、()され気味だった。相手が令嬢で遠慮が多少あるとしても、必死で防いでいたのが額に浮かんだ汗で分かった。   「令嬢がクナイなんか持って、騎士と忍相手に手合わせするなんて前代未聞です」    ミリアはイヴァンの妹で優秀な騎士でもある。万が一の事を考え、ウィステリア嬢について貰った。今頃筋肉痛でしかめ面でもしいているだろうな。3時間も打ち合っていたが、汗ひとつかかずに最後には「楽しかったわ!またお願いできる?」と(のたま)った。ハットリは彼女をどうしたかったのか、困惑顔の爺の顔でまた笑いが起こる。退屈しないこんな日はいつぶりだろうか。   「ヤスケ。彼女と何を話したんだ?」   「ハットリ様の話を少々です」   「それだけじゃないだろう?彼女の目的とか」   「…ウィステリア様と言わない約束をしました」   「俺に言うなと?」   「はい」    結婚の適正年齢であるのに、見合いをした経歴がない。 親しいのは数人の令嬢のみ。俺の忍の調べでは、コーデルの3兄弟が品定めしているとか。優秀な長兄アーウィン、剣の大会で連勝中の次兄ダンテ、若くして植物学者の3男カーウィル。是非とも臣下として側に置いておきたい。問題は妹ウィステリアを溺愛している重度のシスコンな所か。  辺境伯爵家は代々優秀な人材の宝庫だ。常に他国からの侵略を防ぐ。故に命の危険にさらされた事のない王都の騎士よりも、コーデルで実戦を経験している騎士たちの方が断然優秀なのだ。やる気のある騎士は修行のためにコーデルに行きたがる。イヴァン兄妹もその口だ。ウィステリア嬢は気付いていないようだが。    彼女の目的も実は分かっている。夜な夜な貴族の屋敷に潜入して、眠っている年頃の男をじっと見ているらしい。特に金品を奪うでもなく、ただ見ているだけと聞いてそんな趣味の令嬢かと思ったが、どうやら違うようだ。何者かは分からないが、誰かを探している。ヤスケはたぶん、その人探しの協力を願われたと思う。   「気に入らない。俺の妃候補だというのに、他の男を探しているとは」   「!!」   「殿下…それはいったいどいう意味での発言でしょうか?」    驚くイヴァンと、相変わらずポーカーフェイスのヤスケの質問。何かおかしな事を言ったか?   「せっかく面白い駒を、顔も知らない男に取られるのが気に入らないだけだが?」    無言のイヴァンが何か言いたげにして、言葉を飲み込む。   「殿下はウィステリア嬢を気に入っているのですね」    なぜか珍しく笑顔のヤスケ。   「そうだな。気に入っていると思う」    ニコニコする忍と思案顔の側近という不思議な光景に、首を捻るばかりだった。
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