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三日月夜の忍姫
「あの男性で、王都にいる黒髪の方はこれで最後なの?」
屋敷に潜入した私と珊瑚、タイチで気配を消しながら屋根を走る。
「残念ながら…王都の端の村まで探索しましたが」
「そう…彼はもうこの世にいない可能性が高いのね…」
黙ってしまう忍の2人。流石の私でも落ち込んでしまった。タイチやヤスケが探してくれたのに、こんな姿を見せてはダメね。
「もしかしたら、王宮でカツラを被っていらっしゃるかもしれないわ。諦めちゃダメよね」
我ながら慰めにもならない言葉を吐いちゃった。情けなくなって涙ぐむ。9年想い続けたもの、悲しいじゃない。
「ウィステリア様」
突然タイチの足が止まる。俯いて何か考えているのが分かる。
「どうしたの?」
意を決したように顔をあげる。少し欠けてきた月明かりがタイチの顔を照らした。
「忍の間で噂があるんです。あくまで噂ですが…」
タイチが語った話に、危うく気配を消すのを忘れそうになった。
「王宮の北にある塔に、黒髪の男が佇むのを見た者がおります」
北の塔ってあの塔よね。王宮のどの角度からも、見えないように隠された監獄。王宮に着いてすぐ目に付いた。本能かな、反省部屋ぽっいのはすぐ分かっちゃうの。
城下で訪れた雑貨屋の女主人から聞いた話では、王都で育つ子供たちに戒めや童話のように語られている。
「悪い事をしたら、北の塔に連れて行かれて一生そこで暮らすのよって、良く母に叱られた覚えがあります」
笑い混じりに言ってたっけ。王宮にカツラって言ったけど、王宮に来ている貴族は王都に住んでいるから、結局調べ尽くしたって事になるのよ。
そこへ北の塔の噂。
「ありがとうタイチ。調べてみる価値はあるわ。でも警備とか桁違いに厳しいわよね」
「はい。週に一度サスケ様やイヴァン様自ら警備していらっしゃいます」
怪しいわ。今からでも行きたいけど、曰く付きの塔ってなんなのかしら。調べてから行った方がいいかもしれない。王宮の図書館は自由に使っても良かったはず。暗い所でじっとしているのは苦手だけど、言ってられないわ。
ウィステリアが奮闘してる間、コーデル家では、ある出来事が起こっていた。
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