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兄と弟
そーと自室のドアを、旅支度を済ませた姿で開けたのは次兄のダンテ。
屋敷中が寝静まったこの時間にである。
脳筋のダンテは、このまま馬を乗り継いで行こうと考えている。
「誰もいな…」
「兄上」
「ぎっむぐっ」
大声で叫びそうになって、慌てて自分で口を押さえる。
「カー坊か、びっくりすんだろ」
「ウィスに会いに行くつもりですか?」
幼少期よりずっと「カー坊」と呼ぶダンテの服装を見ながら、問う。
「なんだよ、文句でもあんのか?」
「無理ですよ。検問所にはアーウィン兄上が目を光らせてますから」
弟たちの考えていそうな事を予測して、網をすでに張っていた。さすがアー兄先手を打ってきやがる。
「私を連れて行けば、通れますよ」
カーウィルの姿を見れば、同じように旅装だった。しかも後ろには荷物持ちの従者までいる。
驚いて損したじゃねえか。
「カー坊、何か策があんのか?」
ニンマリ笑う弟。アー兄も怖いけど、カー坊が一番怖いんだよな…ぶるっと振るえながら後を追った。
「そうか、出てきたか愚弟ども。」
忍から報告を受けているのは、コーデルの長兄アーウィン。
忍の動きや、国境の様子などの報告書に目を通しながらふっと笑う。
「そろそろクサカベの者たちが動きそうだ。準備は整っているな?」
「はい。滞りなく」
「ダンテは気付かないだろうがな」
「閣下が予測した通りに、動いていくのでしょうか…」
「何年兄弟やっていると思ってるんだ?愚弟の行動など手にとるように分かる。要はカーウィルだが、あいつなら気付くだろう。さて、国というチェスゲームが動き出すぞ」
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