兄と弟

1/1
前へ
/54ページ
次へ

兄と弟

 そーと自室のドアを、旅支度を済ませた姿で開けたのは次兄のダンテ。  屋敷中が寝静まったこの時間にである。 脳筋のダンテは、このまま馬を乗り継いで行こうと考えている。   「誰もいな…」   「兄上」 「ぎっむぐっ」    大声で叫びそうになって、慌てて自分で口を押さえる。   「カー坊か、びっくりすんだろ」    「ウィスに会いに行くつもりですか?」    幼少期よりずっと「カー坊」と呼ぶダンテの服装を見ながら、問う。   「なんだよ、文句でもあんのか?」   「無理ですよ。検問所にはアーウィン兄上が目を光らせてますから」    弟たちの考えていそうな事を予測して、網をすでに張っていた。さすがアー(にい)先手を打ってきやがる。   「私を連れて行けば、通れますよ」    カーウィルの姿を見れば、同じように旅装だった。しかも後ろには荷物持ちの従者までいる。 驚いて損したじゃねえか。   「カー坊、何か策があんのか?」    ニンマリ笑う弟。アー兄も怖いけど、カー坊が一番怖いんだよな…ぶるっと振るえながら後を追った。 「そうか、出てきたか愚弟ども。」 忍から報告を受けているのは、コーデルの長兄アーウィン。 忍の動きや、国境の様子などの報告書に目を通しながらふっと笑う。 「そろそろクサカベの者たちが動きそうだ。準備は整っているな?」 「はい。滞りなく」 「ダンテは気付かないだろうがな」 「閣下が予測した通りに、動いていくのでしょうか…」 「何年兄弟やっていると思ってるんだ?愚弟の行動など手にとるように分かる。要はカーウィルだが、あいつなら気付くだろう。さて、国というチェスゲームが動き出すぞ」  
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加