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兄様の存在
うにゃ〜ん、にゃにゃ
ガバっと起き上がる。ダンテ兄の合図だ!…夜の散歩って…
あれ?でも今は王都よね。見渡しても王宮での私の自室だし。寝ぼけてる?
うるるにゃ〜ん
窓を開けてさっと下を見渡す。いた!
私が落ち込んだ時に必ず猫の鳴き真似をして、気晴らしの散歩に誘ってくれる。
堪らず窓から両手を広げて、ダンテ兄様にダイブ!
「おまっ!っぶねえな」
いろいろあったの…一番は「紫の君」がもう亡くなっている可能性が高いってこと。
「しょうがねぇな、お前は」
言葉ではそう言いながら、優しく頭をぽんぽんと叩く。
視界が揺れて大粒の涙がこぼれ落ちていく。王宮では泣けないもん、協力してくれる優しい人はいても心を全て許せるのは家族だけで…お礼を言えないまま、彼が平穏な日常を暮らせないまま、お別れなんて…あんまりよ。
「お前を泣かした奴の名前を言え」
「え?」
「1人残らず殴って回るから」
「違うの…これは違う理由だし、王宮では特に何もない」
涙の理由とダンテ兄様の考えている理由が違いすぎて、間抜けな返事をしてしまった。
変わらないダンテ兄様の顔を見て気が緩んだのか、カーウィル兄様にしか話していなかった「紫の君」のことを話す。
「そうか。人探しのために王宮に来たんだな」
「うん」
「あと3カ月もあるのか。嫌なら一緒に帰ってもいいんだぞ?」
「ううん。やるだけやってダメだったら…遠慮なく帰る」
「カー坊も来ているんだ。ソリという商家の家にいるから訪ねて来い。会いたがってる」
「ほんと?!分かった。…ダンテ兄様」
「ん?」
「ありがとう、元気出た!頑張るね」
「あんまり無理すんな。俺やカー坊を頼れよ」
私の頭をぐしゃぐしゃに撫でて、笑顔で夜に消えた。
少し冷たかった手にみるみる力が漲ってくる。
すごいなぁ…私も紫の君にとって、ダンテ兄様たちのような存在になりたい。
私はコーデル辺境伯のウィステリア、
忍姫がこんな所で折れちゃ兄様達に申し訳ないわ!
書物はもう1冊。明日読んで明後日に塔へ行ってみよう。
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