最後の本

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最後の本

朝の組手の後にミリアにこう言われたの。 「何かいいことでもあったのですか?クナイが弾んでいましたが」 恥っ!いいことずくめだったもの。 兄様が会いに来てくれたし、紫の君の手がかりが細いけどあったのよ! 「今日も図書館に籠るけど、あと1冊でね。お昼過ぎには戻れると思うの」 「行ってらっしゃいませ。その頃に昼食をお持ちしますね」 1冊残していた本は一番大きくて、少し分厚め。硬い表紙にアデル国の紋章、天翔ける一角獣が付いていて。なんか高そうな装飾の本だけど、読んでよかったの? 本にはアデル王家の歴史が書いてあった。 アデル国の始祖はキノという女性。豊かな土壌に人が集まりだし、農業を中心にどんどん発展していく。 キノはキテ出身で、魔法を駆使してアデルのために働いた。キノは功績からアデルの女王へ。 それから3代まで女性が王となった。3代目の女王はミデルとの同盟のため、当時の王太子と婚姻。 「同盟していたのに、攻め込まれたのね。もしかして婚姻した王太子ってスパイだった?」 そんな訳ないか、女王とミデルの王太子は仲睦まじかったって書いてある。じゃあ、周りの強欲な者の仕業なのかな。 生まれた王子は…えっ…4つの文字に視線が止まる。 <生まれた王子はミデルと始祖キノ様の血を濃く受け継いで、漆黒の髪(●●●●)をしていた。> 3代目を境に第一王子が国王となった。賢王と呼ばれるほど、よく国を治める。 しかし、アデルの土地との相性がいいのか他の血が入ってなのか、もともと強かった国王の魔力が暴走し始める。 忍が国王のために魔力を吸い取る塔を建設。魔力が暴走していたその時を狙ったかのように、4国が攻めてくる。 キテの魔法で攫われた女王は…国王の目の前で殺されてしまう。 怒り狂った国王は、アデルの国の1/3とキテの国を一瞬で荒野に変えてしまった。アデルの騎士や忍たちはこれを機に4国を制圧する。 「なんて事なの…目の前で…それに魔力の暴走で国ひとつを滅ぼしたとか」 タイチが言っていた「黒髪の魔力暴走で国が滅びかけた」の事件はこのことなんだわ。 都合の悪い歴史は、人が都合のいいように変えちゃうものよね。 となると、王族にも黒髪の者がいるという事になる。 ジーク殿下は綺麗な金髪だから外すとして、一体誰なのかしら。 魔力を吸うと言われる塔というのは、きっと北の塔のことだわ。 王宮のどこにいようと、定期的に塔を使うのかもしれない。 大収穫!何にしても北の塔に行かないことには、始まらない。 だけど、厳しい警護をどうやって切り抜ければいいの? …そうだ!カーウィル兄様なら何か思いつくかもしれない!
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