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ソリ商会にて
「イヴァン様とヤスケ様もお入りください」
なんでもお見通しだという顔で、俺を彼女がいる部屋とは別の部屋へ案内するカーウィル。薄手の白いカーテンが全て閉められた部屋だった。
ソリ商会はコーデルの商人が王都に出している店の一つで、王都に出てくるコーデルの者の世話をしているらしい。
「会話を聞かれたくないので、結界が貼られた部屋ですよ」
笑っていない深紅の瞳で座れと促す。なんだこの圧は。
座るともう1人、男が入って来た。
「初めまして、ダンテ・コーデル・ルーカスです」
カーウィルとは真逆の雰囲気のある、コーデル家次男のダンテ。
コーデルの武術大会や、他国の大会に素性を隠して参加しては優勝をさらっていく。
剣も弓使えて、とんでもない怪力の持ち主だとも。
自己紹介を終えると、腕を組んでカーウィルが座るソファの後ろに立つ。
全身から力がゆらりと漏れ出る感じがした。
「コーデルの兄弟が揃い踏みで出迎えてもらえるとは、光栄だね」
少し挑むような物言いにしてみる。
「妹のために田舎から出てきたんです。彼女は俺たちの光ですから」
不敵な笑みを見せるカーウィルは、わずか10歳で植物学の博士号をとった秀才。
今ある風邪に効く薬や傷薬などを彼が開発したと聞いている。
辺境での戦いでは軍師として参加しているとか。あまり小細工は通用しないな。
そして、何よりその深紅の瞳は…
「ええ、そうです。僕はキテの末裔で、コーデル家の養子ですよ。なんでも見通してしまうので、確かに小細工は通用しませんね」
なるほど。それで「ケイン」か。
「ダンテと言ったか、座ってもらえないか?ヤスケが緊張していて、肌がピリピリする」
いつでも飛びつけるようになのか、ずっと立って薄い殺気を出していた。
さっきからヤスケが緊張を強いられている。
舌打ちでもしそうな顔をして、ソファに腰掛けて足を組んだ。
「まずは一つ目の話から始めましょう。殿下は妹が好きですか?」
隣のダンテがピクッと反応。腕を組んで機嫌の悪い顔をする。
カーウィルは何が言いたい?
「彼女は妃候補として俺が呼んだ。妃選びという茶番も面白くなると思ってな。それに彼女は誰かを探すために、王都に来たようだ。俺がなんと思おうがが関係ないのでは?」
「ふむ、自覚なしか…さっきも言いましたが、妹は僕らの光でね。その気がないのなら、早めにこちらへ返していただきたい」
お前の遊びに付き合わすのなら、さっさと返せと。
嫌だね。やっと楽しくなってきたというのに、馬車でのあの反応は1週間ぐらいは笑える。
1年ぐらいいいじゃないか、他はずっとお前たちの妹なんだ。
「本人の意思次第だな。聞いてみるといい」
「まあいいでしょう。じゃあ2つ目の話だ」
雰囲気がガラッと変わる。頭の良い奴が使う手段だ、そうやって相手の心を揺さぶる。
「クサカベが動き出した。キテの魔法使いとミデルの残党が妹を利用して、ハットリを引き出すつもりだ。それに…」
ダン!
気づいた時には、もうダンテが忍を拘束していた。
「いけませんね、盗み聞きとは。コカスのクサカベの者ですね?」
無言の忍、無駄だろう忍は死ぬまで何も喋らない。
「なるほど、探している「紫の君」を利用してハットリを誘き出すと…よくもまあ俺たちの前にそんな事を、持ち出してきたものだな。しかもウィスを攫うだって?」
喋るごとに深紅の瞳が赤く光だし、部屋の空気が重くなっていく。
静かな殺気を出しながらカーウィルが忍に近づいた。
「ウィスに何かしてみろ、コーデル全てを敵に回すことになる。ウィスが大切にしているハットリや紫の君にもだ」
ヤスケが嫌な汗をかき出した。俺も皮膚がチリチリと痛い。
「コカスを含めた全ての人間に、殺してくれと言わせるほどの事をする。帰って伝えろ」
ダンテが拘束を解くと、消え去った。コカスの事まで把握しているのか。
離れた国境に位置するコーデルだが、王都の事まで把握して動いている。
「イヴァン様にコカスの事をお願いしようかと。クサカベは我々で制圧します」
光が収まったカーウィルに、笑顔を向けられたイヴァンが背筋を伸ばす。
こちらでもコカスの同行は注視していた。
イヴァンもカーウィルからの指示を素直に聞いている。
「王太子」
不意にずっと黙っていたダンテが声をかけてくる。
「ウィスには素直に話をしろ。あいつは案外、器がでかい」
それだけ言うと部屋を出て行った。
まだよく知らない彼女に?
それに探しているとされる「紫の君」とはいったい誰のことなんだ?
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