コーデルの鬼神

1/1
前へ
/54ページ
次へ

コーデルの鬼神

「アーウィン閣下」 部下から報告書を受け取る。さっと目を通してにやっと笑った。 「カーウィルはクサカベの者と接触したんだな」 「はい。ソリ商会にてコーデルが動くと宣言し、逃したようです」 「ほとんどクサカベの者は処分済だがな。主力が残っているが、愚弟共が制圧するだろう」 すっと立って活気のある市場を、目を細めて眺めた。 「黒髪についての書物を、図書館に置いて来いと言うご命令はいったい…」 「王家共の真実をウィスに知ってもらうためだ。その上で本人がどう判断するかだろう」 妹が奴隷だったカーウィルを助けて欲しいと言ったその日、カーウィルの深紅の瞳が宣言した。 「ウィステリア様は王妃になられる方です。この国を根底から変えられる偉業を成す」 治療院で俺と父上にそう語った。心底驚いた。 キテの民の中でも数が少ない「真実の深紅」と呼ばれた瞳がだ。 王太子を始末してやろうと思ったが、恋愛を諦めてしまった妹が王太子を愛していたらと思ったら、思ってしまったからできなかった。 まるで運命だと言わんばかりに、妃候補として城に呼ばれて行ってしまう。 思えば、運命は妹の誕生日から始まっていたのだ。 カーウィルの心を開かせ、乱暴者だったダンテを御し、ハットリおも癒したウィスが幸せになれるなら。 正直偉業などどうでもいい。王妃という肩書きだって大したことはない。 彼女が幸せに、笑って暮らして行けるのなら。 「4国の残党はどうなった?」 「アデル国内の大半を、コーデルとアデルの騎士たちが制圧しました。ただ…」 「国境付近で集まり出したのだろう。王太子の黒髪を暴き、混乱に乗じてアデルを潰す算段だな」 「そうです。ご命令通りコーデルの騎士で一箇所に集めております」 「上出来だ。父上と俺で全て壊滅させる。準備はできているな」 「はい!いつでも出せる状態です!」 戦場で「鬼神」と呼ばれるコーデルの当主と長兄の戦いを、この目で見られると思い高揚する部下と廊下を颯爽と歩く。 「大掃除はしてやる、愚弟共。ウィスの邪魔になるものは徹底的に排除しろ」
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加