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コーデルの鬼神
「アーウィン閣下」
部下から報告書を受け取る。さっと目を通してにやっと笑った。
「カーウィルはクサカベの者と接触したんだな」
「はい。ソリ商会にてコーデルが動くと宣言し、逃したようです」
「ほとんどクサカベの者は処分済だがな。主力が残っているが、愚弟共が制圧するだろう」
すっと立って活気のある市場を、目を細めて眺めた。
「黒髪についての書物を、図書館に置いて来いと言うご命令はいったい…」
「王家共の真実をウィスに知ってもらうためだ。その上で本人がどう判断するかだろう」
妹が奴隷だったカーウィルを助けて欲しいと言ったその日、カーウィルの深紅の瞳が宣言した。
「ウィステリア様は王妃になられる方です。この国を根底から変えられる偉業を成す」
治療院で俺と父上にそう語った。心底驚いた。
キテの民の中でも数が少ない「真実の深紅」と呼ばれた瞳がだ。
王太子を始末してやろうと思ったが、恋愛を諦めてしまった妹が王太子を愛していたらと思ったら、思ってしまったからできなかった。
まるで運命だと言わんばかりに、妃候補として城に呼ばれて行ってしまう。
思えば、運命は妹の誕生日から始まっていたのだ。
カーウィルの心を開かせ、乱暴者だったダンテを御し、ハットリおも癒したウィスが幸せになれるなら。
正直偉業などどうでもいい。王妃という肩書きだって大したことはない。
彼女が幸せに、笑って暮らして行けるのなら。
「4国の残党はどうなった?」
「アデル国内の大半を、コーデルとアデルの騎士たちが制圧しました。ただ…」
「国境付近で集まり出したのだろう。王太子の黒髪を暴き、混乱に乗じてアデルを潰す算段だな」
「そうです。ご命令通りコーデルの騎士で一箇所に集めております」
「上出来だ。父上と俺で全て壊滅させる。準備はできているな」
「はい!いつでも出せる状態です!」
戦場で「鬼神」と呼ばれるコーデルの当主と長兄の戦いを、この目で見られると思い高揚する部下と廊下を颯爽と歩く。
「大掃除はしてやる、愚弟共。ウィスの邪魔になるものは徹底的に排除しろ」
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