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縁談
「座りなさい。」
静かなお父様の声が余計に怖い。応接セットのソファの1つにドギマギしながら座る。
机の上にあった封筒を持って、対面のソファにお父様が無言で座った。
貴族の屋敷に潜入していた事がバレたのかしら…修道院行きだけは阻止しないと。彼を探し出すまでは!
「お前に縁談の話が来たんだが…」
しばしの沈黙。いやいや、揶揄われているのでは?受取人を間違えているとか。
「よりにもよって、なぜ王太子様がお前を望むんだろうな」
「オウタイシ?変わったお名前の方ですのね」
「つっこむ気も失せる。ジーク王太子様だ」
この国の第一王子様がジーク・アデルバード・ノアと言う。確か同じ年だったはず。
「まさか。あは…」
笑い出そうとする私を制するように、目の前に差し出した王家の紋章が付いた上質紙の封筒。
「マジなの?」
「マジだ」
何を間違って辺境伯の「忍姫」に、ジーク殿下から縁談話が来るのよ。他の候補者の引き立て役?もしくは縁談避け?
「言いたいことは分かる、私もいろいろ疑ったからな。だが、本当に妃候補として城に招待されている」
お父様から封筒を奪って、目を通してみる。最後の一文を読み上げた。
「ウィステリア・コーデル・ルネ。1年の期限で妃候補として王宮に招待申し上げる」
上等な便箋を裏返したり、日に当ててみたりしたけどそれ以上の文面は見当たらない。
…待って、これってチャンスじゃない?主要な貴族はもう探し尽くしていて、まだ探していないのは「王都」と「王宮」。思わずニンマリしていたみたい。
「お前…問題だけは起こしてくれるなよ?」
「分かっているわ。目立たず騒がず1年を乗り切って帰ってくるから!」
「お前の言葉が一番信用できないんだよなぁ…はぁ」
ため息をつくお父様を放って、私はウキウキと探索計画を練る。やっと会えそうなのよ、「紫の君」に。
不安そうなお父様と、泣きそうなお兄様方に見送られながら、私はウキウキと迎えの馬車に乗った。
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