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最後の訪問
「ごきげんよう、ジーク殿下」
「やあ、座っても?」
「はい、どうぞ」
他の令嬢の部屋は無駄に装飾してギラギラした部屋になってしまっているが、ウィステリア嬢の部屋は花が少しあるだけの明るい部屋。
俺が座ると、彼女も対面に座る。
…どう想おうが、手を伸ばそうが絶対に手に入らない。
「ジーク殿下?」
ぼうっと彼女を見ていたようだ。重症だな。
「お探しの方は見つけましたか?」
「!!」
少し悲しそうな顔をして俯いてしまう。まだ見つかっていないのか…
「もしかして、想い人とか?」
「……」
そんなにそいつの事を想っているのか?
王宮に呼び出されて来たのも、そいつのためか。
俺のためではなく…
「明後日には、王宮に来ている令嬢を10人に絞るつもりだ」
ばっと悲しそうな顔のまま俺を見る。
もうこんな所に居る意味もないだろう。
居心地の悪い王宮なんぞより、頼りになる家族のもとへ。
「ウィステリア嬢が帰れるように取り計らおう。茶番に付き合わせて悪かった」
俺が勝手に彼女を呼んだんだ。俺が幕を下ろさないとな。
俯いているのは、後3日しか探せないから急がないとでも考えているんだろう。
手に入れたいと焦がれる前に…心が引き裂かれる前に。
…もう会うこともない。
「部屋の訪問はこれが最後だ。コーデルに帰ってお幸せに」
ズキズキと痛む胸を無視して、返事を聞かずに部屋を出た。
「殿下、どうして…」
後ろから脱力したようなイヴァンの声が降ってくる。
「言っただろう?手に入らないものを、側に置いていたって無駄だ。彼女も王宮に居たって意味がない」
探し人は王宮でなくてもできるだろう。探しあてて結ばれでもするがいい。
俺の知らないところでな。
後は…いつバラすかだ。
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