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ミリアの決意
「帰れって、殿下に言われてしまったわ」
「はあ?!本当ですか?」
信じられない。イヴァン兄様には殿下とウィステリア様は両思いだって聞いたのよ。
何やってんのよあのバカ王子は!お2人にして差し上げたのが仇になったわ!
昨夜のイヴァン兄様との会話を思い出す。
「だから、北の塔にウィステリア様が来たら、何も言わずにお通しして欲しいの!」
「バカな事を言うな。国家機密なんだぞ?」
「バカは兄様!ウィステリア様の純粋な想いを無視すると言うわけ?」
我ながら妹我儘が炸裂しているって自覚はある。
でもね、見てきたから、必死に探すウィステリア様を。
落ち込んだり、泣いたりしながら生きているという一心で。
他の令嬢から嫌がらせを受けても、「慣れているから」と言いながら一瞬だけ傷ついた顔をしたのよ。
当たり前でしょう!あんな悪意てんこ盛りの言葉で、傷付かない訳がないわ!後でしっかり仕返ししてやったけどね。
それでも「紫の君」のために頑張って来たのよ、9年…いえ、もう少しで10年になる。
殿下が黒髪であることも薄々感づいていた。
週に一度、夜な夜な兄様が北の塔に寝ずの警護に出かける。
ウイステリア様から塔の話を聞いた時、ピンと来たわ。
だって分からずやだろうが、兄様はジーク殿下の側近だもの。
警護するならジーク殿下に決まってる!
何度も言った方がいいのかと思ったけど、ウィステリア様ならきっとたどり着くはずだと思って、支えていくと誓った。
「兄様。許して貰えないなら、直接ジーク殿下に許可をいただくわ」
「兄様を困らせないでくれ」
兄様はそう言いながら、書斎の方に手招きする。
パタン
「誰かに聞かれていたら危ないからな」
「兄様?」
ソファに深く腰掛けて、疲れた顔でため息をついた。
「カーウィル様には、お前が呼んだ時に先に会っていたのは知っているな?」
「ええ」
「この場面もカーウィル様は見通しておられたんだ。書斎に今日この時間に札を使って結界を張れともな」
あの深紅の瞳ね。ウィステリア様が全幅の信頼があるカーウィル様。
コーデルでの修行時代でも、騎士たちの信頼を集めていた。
「お前が、ジーク殿下が黒髪であることも感づいているとも言われた」
「!!」
凄いわ。全てが見えているのね。
「それと、誰かが死ぬとも」
「死ぬ…?」
声がうわずったわ。誰って誰なのよ!なんで隠すのよ、カーウィル様!
「騎士である私が、そんな予言で引き下がるとでも?」
「ミリアとも明日でお別れね。寂しいと思うのは私だけかしら」
寂しそうに涙を堪えるウィステリア様。…大丈夫ですよ、このミリア、命に替えてもあなたを守って見せますから!
「ミリア?」
思わず拳を高々と上げていたわ。恥かしい。
「大丈夫です。ミリアはウィステリア様のお側を離れませんから」
にっこり笑う私を、ウイステリア様は不思議そうに見ていた。
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