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青空の果てに
傷が癒えるまで3カ月かかった。
忍の毒は思ったより強力でね、私の髪が真っ白になった程。
すっかり鈍った体を元に戻すのに1年かかったわ。
一足早くジーク殿下は、アーウィン兄様にしごかれにコーデルへ行ったの。
黒髪の魔力の制御や、剣術、体力作りに戦術の講義。想像しただけで疲れる。
毎日花と一緒に、私の事を心配する手紙がジーク殿下から王宮に届くのよ。
誕生日にはお祖母様のチェリーパイや、王都の皆んなからプレゼントが届いた。
私はと言うと、今の国王陛下や皇后陛下の訪問があったの。
黒髪に関しての概念や思想を恥じていたわ。息子にも辛い思いをさせたと。
コカスや貴族に啖呵切った私を見ていたそうで。
なんで2人して見てんのよ。
それから妃教育を受けてみたんだけど…アーウィン兄様のしごきにそっくりだったの。
アー兄は分かっていて、教え込んでくれていたのかしら。
様子を見にきたアー兄様に聞いても、にやっと笑うだけで教えてくれなかったわ。
ミリアと珊瑚は私付きの護衛になったのよ!
ミリアの騎士の制服は、紅の色を差し色にした素敵な制服。
珊瑚は名前を与えられる時、「珊瑚」がいいって言ったみたい。
そうそうダー兄様とカー兄様はジーク殿下と一緒に鍛えられて、被害総額の半分をアー兄様に返済したんだって。クタクタになった2人を想像して笑ってしまったわ。内緒よ。
私の料理が恋しいって嘆いていたとも。
アー兄様にジーク殿下がだらけてしまうから、帰ってくるなって言われちゃったからまだ会ってない。
そうしている内にジーク殿下やイヴァン様、ヤスケが王宮に帰ってきた。
「ウィス!」
ジーク殿下が逞しくなった腕で、私を抱きしめる。
殿下の香りだ。黒髪が少し伸びたのね。
やっぱり金髪より私はこっちの方が好き。
「君といると落ち着く」
来年には結婚式を挙げる予定になっているのよ。
後ろからツカツカと鬼の形相のアー兄様が歩いてくる。
貴族たちを前に仁王立ちで宣言した。
「無能な王都の貴族どもよ!王太子と妹の結婚式までに俺が鍛えてやる!」
どよっとなった貴族の中に、ちらほらと黒髪が見える。
「コカスやクサカベの者のような動きに、誰1人気付かなかったとは嘆かわしい!!王都の整備も含めて鍛えに鍛えてやるから覚悟しろ!」
何人かがピシッと背筋を伸ばす。貴族の中にも少しはできる人もいるのね。
「ずっと言ってたんだ、王都も改革が必要だって。俺も参加を命じられている」
王太子様が辺境伯長兄に命じられているって…。
「忙しくなるが、君との時間は死んでも作る」
「ふふ、死んだら意味がなくなるわ。無理はしないでね」
ビシッと背筋を伸ばすと、アー兄様にこう言った。
「我が愛しい婚約者と過ごす時間を1時間、いただいてもよろしいでしょうか?!」
ギロっと睨むアー兄様。
「馬鹿者!王都に何をしに戻ったと思っている?!30分だ!婚前に妹に手出ししたら殺してやる」
「はっ!」
どっちが王太子様なのよ。ジーク殿下は私を抱き上げてそのまま庭園に走って行く。
「会いたかった。ずっと君の夢を見ていた」
「大袈裟よ。でも私も会いたかったわ」
私の人探しは色々あったけど、みんなの力で彼まで辿り着いた。
これからは、王妃として恩返ししていくつもりよ。
晴れ渡った王宮の庭園で、笑い合う。
白い鳩が、空に舞い上がった。
完
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