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俺の投じた一石
その日の夜。
「へえ、さすが忍姫」
「勝手に名前までつけられて…」
ブスくれているのは忍姫の護衛につけた忍。感情を出さず忍ぶ者が忍なのに、感情がすぐ出てしまう三番の班に所属している13人中の五番目。一番は精鋭、二番は期待された者たち、三番はその他。
「しっかり監視を頼むぞ。辺境伯の娘だ、何かあったら王宮の騎士団が束になっても敵わない辺境騎士たちの怒りを買う事になる」
「でしたら一番の者を付けるべきです」
今度は雇い主に口答え、面白いな三の五番は。すうと忍姫の監視に戻る。
「それにしても忍姫は…ぶくくく。」
辺境のコーデル伯爵に拾われた忍は、世界最強だったハットリという忍。部下の策略によって重傷を負う。傷はもう癒えているというのに王宮に帰らず、辺境伯の家に止まりウィステリア嬢を気に入って弟子にしたと聞く。弟子を取らないあの堅物ジジイがだ。応接室に入った途端、配置していた忍を正確に目視で捉えていた。今の忍の頭目ヤスケが警戒したほどだ。三の五番よりよっぽど優秀な忍じゃないだろうか。令嬢が忍って…
「面白がっている場合じゃありませんよ。ジーク殿下」
「分かっている。妃を選ばなければならないんだろ?」
どうせ選んだところで、宰相の腐れジジイ共に難癖をつけられて、こっちにしろと決まっていた娘をあてがわれるだけだというのに。それなら最初から決まった娘だけを連れてくればいい。こんな茶番に税金を使わなくて済んだはずだ。そんなに体裁が大事なのか…
「どうして辺境伯の娘を招待したんですか?それも無断で」
「面白そうだからに決まってるだろう。茶番も少しは楽しくなりそうだ」
はあとため息をつくイヴァンが、喋りながら書類を片付けていく。明日から身分の高い令嬢順に部屋を訪ねて行かなくてはならない。
実につまらないが、俺が投じた一石は一体どんな波紋を呼ぶのやら。
「楽しみだ」
「ジーク殿下、こちらの資料を1時間で覚えてください」
容赦のないイヴァンから書類を引ったくりながら、楽しそうに笑った。
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