3人が本棚に入れています
本棚に追加
ウイークリー・ウォークに出かけようとして
家の近くでは歩きたくない と
喉の奥に 嫌悪感がこみあげる
この街は つまらない
どこも かしこも もう歩いてしまった
わたしを変える 新しい契機 なんて
ない
今 どれだけ
生まれ 育った この街を 憎んでいるか
わかった
今 働いている会社を どれだけ嫌いか
わかった
彼らは わたしが何者か 全然わかっていないから
すり鉢の底のような世界から
逃げ出せ!
走れ! どこまでも遠くへ
あの雨雲の向こうへ
今夜訪れる嵐の予兆の 黒雲の切れ間の
青空の下へ!
どこまでも 逃げ続けよう
逃げた先が 安住の地だと思ったら そうではなかった
だから 逃げ続ける どこまでも
逃げ続けて あらゆる責任から逃げて
巷間のドブに顔をつっこんで
倒れた 甘ったれの父のように
初めての川のほとりに 降りる
河原に生い茂る 草と木々
そのすき間に 膝を抱えて 体育座りする自分を
イメージする
雨具と新聞紙 そしてブルーシートが一枚
あれば 夜を越せそうだ
雨が降れば 雨に濡れて 体の芯まで冷えよう
洪水のように 水位が上れば 逃げるか
中州で見つかった 身元不明の遺体が
死の瞬間 幸せだったか そうではなかったか
なんて 誰も 知りはしない
河原の草むらで うずくまろうと
家で忙しく 義務を片づけていようと
奴らには 関係ないことだ
わたしが一人 なのも変わらない
迷惑には違いないが
心配など 誰もしないだろう
川のほとりを 歩く
高圧鉄塔を 下から見上げる
カメラを向けると
大きなバッタが 跳ねて逃げる
嘴で えさをつまみ上げようとした
カラスも逃げる
― ねえ、君たちは生きているのか?
自動機械ではないのかい?
君らが生きているのなら わたしは
生きていると言えるかな?
突然 道が終わった
水門と標識は 真っ赤に錆びて
「水の出会うところ」なんて 洒落たもんじゃないけど
川の合流地点には 違いない
「憎んでいる」は「愛している」なのだろうか?
それとも 「甘えている」に近いのだろうか?
わたしは 母を憎んでいるのだろうか?
愛しているだなんて とても言えた義理じゃない
わが血の中の 父と母は
生前同様に 水と油で
混じることなく 陰陽のマークを描く
「責任」という言葉は 知っている
「正しさ」も「合理性」も
でも それら全てが
揃わないのが 人間というものじゃないか
わたしは 人間だ
人間として生き 人間を見つめるしか
救いの道の道標はない
誰よりも 何からも 自由になるための わたしの旅は
秘密裏に 人に気づかれぬように 続行するしかない
限りない優しさ なんて持っていない
目をみはるような有能さ のかけらもない
本に書くような新発見 もしていない
長生きしても 愛し愛される人にも 出会わない
それでも
自分には 価値がある
と
神を信じるように 不合理に
わたしの言葉を 必要としている人がいる
と
ただ妄信して 生きるのだ
<FIN>
最初のコメントを投稿しよう!