駅へ

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 平日の昼間の車内は空いている。 しかも地方の沿線の普通列車、乗っているのは数えるほどだ。  「いやまじでまじで。ほんとだって。」  「絶対うそやん。」  前の席に座る学生さんの会話が聞こえてくる。 注意するほど大きな声じゃないが、気になる。  「いがらしけっていう駅。路線図にもない。終電に一人で乗ってると いつの間にか着いてるんだって。」  「よくネットで見るやつやん。」  「いやこれはまじらしいのよ。バイト先の先輩が言ってたから。」  「一番怪しいやつやん。バイト先の先輩もネット見ただけやって。」  うわあ。なんでこのタイミングでこんなん聞かされてるんだろ。  「ミッちゃん先輩、ほんとに行けんの?」 ケータイから目を離さずに、横に座るマイコが言う。  「さあ?」  「うわー、超無責任。」  「釣りに行って絶対に釣れるとか言うやついるか?」  「えー、釣りってそんなむずいん?」  「オレが道端で女子高生ナンパするくらいの成功率だろうなぁ。」 マイコが大声で笑い出したので慌てて口を塞ぎ、こちらを見ていた数名の乗客の方々にすいませんと小さな声で謝った。  「でかい声で笑うな。」  「でかい声で笑わせんなよ。そっちが悪い。」  「とにかく静かにしてろ。なんかあったら言う。」  「なーんでこんないい天気なのに電車に乗ってるだけなんだろ。」  「こんないい天気に電車に乗ってるのは最高だろ。」 そう言い終わらないくらいでトンネルに入ってしまった。  「トンネル多くない?」  「日本はそんなもんよ。」 窓から車内に目を戻し、さて何時ごろまで粘ろうかって思ってたら、 ぐらんと揺れるような感覚がした。網棚に置いた鞄につけたキーホルダーの人形を見る。 キーホルダーの金魚は揺れていない。つまり、物理的に地震かなんかで揺れてるわけじゃない。重力がぐっと体にかかるのがわかった。 急にスピードを上げている。  「マイコ。」 横に座ったマイコを見ると、膝にケータイを置いてぐったりとしている。 首に指をあてる。脈はある。呼吸音も聞こえる。寝ているだけのようだ。  「どうやら当たりみたいだぞ。」 恐らく聞こえていない彼女に向かって、 僕は言った。
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