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列車は平日のローカル線ではあり得ないようなスピードで、
不気味な音を立てながら走り続けていた。
どのくらい経ったか、徐々にスピードを落とし始め、
やがてトンネルの中で停車した。
『いがらしけ、いがらしけ、つうかまちのため、しばらく停車します。』
さっきまでの車内アナウンスとは別人の、男か女かわからない声が響いた。
「っ、寝てません!」
身体をビクッと震わせて、マイコが起きた。
「おはよう。」
「あ、おはよ。なんか寝てたみたい。」
「安心しろ。それが当たりを引いた証拠だ。」
「え、じゃあ着いた?」
「ああ。」
僕が指差した先には『いがらしけ』と書かれた駅の看板があった。
「降りるぞ。」
「りょーかい。」
マイコと二人で列車から出ようとすると、
「ちょっとすんません。」
と声をかけられた。
反射的に身構える。
「おたくら、ここに来て平気そうにしてはるってことは、神社か寺か国の人やろか?」
向かいの席に座っていた老人が、落ち着いた声で聞いてきた。
「あー、そんな大層なもんじゃないんですが、ちょっと仕事でして。」
「友達探してんの。おじいちゃん、じっとしてたら大丈夫だから。」
「いやいや、ありがたいけど、私も仕事でしてな。ちょっとここに用事があるんですわ。ご一緒してもよろしいか?」
数秒ほど老人を見る。人間でまず間違いない。
「わかりました。ではご一緒に行きましょう。」
「おおきに。ほな行きましょか。」
ご老人はそう言うと杖をついて立ち上がった。
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