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ホームは明かりが点いているとはいえ、暗かった。
トンネルの中で止まっているのだから、当然と言えば当然だった。
駅は自販機や売店もあり、結構な広さの駅だったが、
人は誰もいなくガランとしていた。
ホームには煙草の吸殻があちこちに落ちている。
列車の行き先表の駅名はわからないが、
パタパタとアナログに表示が変わる表示板。
今の時代にあるような駅の風景ではない。
「おじーちゃん、こんななんもない駅になんの仕事なん?自販機の補充?」
「いやいや、ちょっと仕事の相手に連絡してたんですが、一向に返事が来ませんでな。直接来た方が早いやろ思て来たんです。」
「駅で働いてるん?」
「いえいえ、京都の街中の方でちょっと店をやってるんですが、ああ、ここです。」
ご老人はそういうと、駅の改札口の横の、駅員室のようなところのボタンを押した。呼び出しのチャイムが中で鳴っているのが聞こえる。
「あ!ミッちゃん、ミカコ!」
マイコはそう言いながら走り出した。
「待て、ちょっと、すいません、すぐ戻ります!」
ご老人に謝ってすぐにマイコを追いかける。
マイコの先にふらふらと歩く制服姿の女の子がいた。
「ミカコ!ミカコ!」
女の子を掴んでマイコが呼ぶと、寝ぼけていたように立っていた少女は、
突然夢から覚めたように目に光が戻り、驚いて自分を呼ぶマイコを見た。
「マイちゃん!?」
「ミカコ!大丈夫?」
「あああぁぁ……。」
ミカコちゃんは、膝から崩れながらか細い声を上げた。
「マイちゃん、よかった……、私、知らん駅に知らん間に着いて、どうしよかと……。」
「うんうん、大丈夫、早く帰ろ。」
「ちょっと失礼。」
僕はミカコちゃんの足元に懐中電灯の光を当てて、
出来た影に向かって傘を刺した。
傘の全長の半分ほどが影に沈み、手ごたえがあった。
影から引き抜くと、全体が緑色の、赤い人の目をした魚が刺さっていた。
「マイコちゃん、ミカコちゃんに見せないように。」
「うわきっも、なにそれ?」
「まー、こっちの世界の雑種というかなんというか、持ち込むと外来種並みに面倒なんでついて来ようとしてるのは追っ払わんといかんのよ。」
「めちゃめちゃ刺さってるけどいいん?」
「これぐらいで死ぬなら持ち込み禁止にはならん。」
傘を横にスイングしてその勢いで魚を線路に向かって投げると、
3バウンドしてから跳ね上がって線路の下に潜っていった。
「ミカコちゃん、大丈夫。」
「帰りたい……帰らしてください……」
顔は青ざめて、震えているのが見てわかるほどだ。急いだほうがいい。
ミカコちゃんのことはマイコに任せて、
早足で来た道を戻る。
「お、無事にお友達は見つかりましたか。」
先ほどのご老人が風呂敷包みを持って立っていた。
僕たちを待っていてくれたんだろうか。
「ほな帰りましょか。あんまり長居してもなんもあらしませんし。」
無言でうなずき、四人で列車に戻る。
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