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翌日、いつもと変わらないあるはずのない上履き、机の上には花、お昼には別の女子数人に呼び出され、淡々と授業を受ける。
「あと2日で夏休みだ。だらけるなよ?」
ホームルームで担任が皆にそう伝えた。
幸いなことにあと2日で夏休み。
私は苺と違って成績はトップをキープしていて、休んだところで留年の心配はない。
それにこの学校割と緩いとこあるし。
だから、夏休みが空けても学校に通わずに身を隠して9月7日が過ぎるのを待つ。
この作戦でいいのか分からいけど、そうするしかない。
本当だったら苺や紅竜と関わらないために転校をしたいところだけど。
「そんなの無理だし…」
苺を川崎のもとに送り届け、帰宅すると静寂を貫く誰もいない家で軽く食事をして着替え、帽子にマスクと雑な変装で家の周りに人がいないかを確認してから重いキャリーを引いて出た。
リビングには「探さないでください」と書き置きをしたけど、両親はきっと探さない。
変わらず私のいない生活をする。
そうだと分かっているのに書置きをしたのは、構って欲しい自分がいるから。
「いや、でも…探されると困ると言えば困るんだけど」
すっごい矛盾している。
そんな私は南地区を出て東地区に足を踏み入れていた。
「とりあえず東地区に来たはいいけど」
新幹線のチケットとるの忘れてた…!
いや、何で忘れてた?新幹線のらないと遠くに逃げれないじゃん!
プランとしては大阪に住んでいる優しいおばあちゃんの家にお世話になろうかと思っていたのに。
今から乗ったところで大阪に着くのは深夜で、終電もない。
となれば今日は近くのホテルで一泊して、朝一で新幹線に乗らなきゃ。
「…こういう所をノロマって言われちゃうんだよな」
“テメェ、何捕まってんだノロマ”
あの時の川崎の言葉を思い出す。
何に対しても、ノロマだのグズだの使えないだの言われて最悪な日々だった。
4月に苺と川崎は出会い、女に見向きもしなかった彼が苺を好きになって5月に付き合いだした。翌日、突然影になれと言われ次の日から穏やかだった学校生活が一変した。
仲良くしていた子たちは離れていき、陰口を叩くようになった。数人の先生は私を問題児を見るような目で見てきたりもした。
本当、散々な日々だった。
「いやぁ…本当、よく耐えた私」
ホテル探しの前に腹ごしらえをしようとコンビニで夕飯を買い、誰もいない夜の公園のベンチで雲で見え隠れする月を見ながら久しぶりに具沢山のサンドウィッチを味わう。
「それにしても、南地区と違って静かな所」
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