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「本当、怖がり」
机の中に手を入れ、盗られるかもしれないからと置き勉をせず鞄に教科書を詰めて苺の元へ重い足を動かした。
「お待たせ、苺」
「行こ、行こ」
私の手を引いて前を歩く苺のツインテールが躍るように揺れる。
何も知らない苺。
幸せそうな苺。
なんで上履きじゃなくてスリッパなの?
どうして教科書全部持って帰るの?
お昼一緒に食べないの?
そう訊いてくれたことは一度もないよね。ねぇ、なんで?
疑問に思ってるのに、引っかかったそれを取ろうとはせず心にそっと蓋をする。
学校を後にして苺と肩を並べ歩いた先にあるのはバイクの修理屋さんで、私の役目はここまで。
このお店は紅竜のOBがやっていて、学校から川崎と苺が一緒に帰ったら騒ぎになるからこうして離れたところで待ち合わせをしている。
そこに私が送り届けるという訳。
「苺」
「川崎君!」
先に来ていた彼に嬉しそうに抱き着いた苺。
私には…もう用はないからさっさと帰れ、とでもいうような鋭い彼の目に睨まれ踵を返した。
「苺、またね」
と言っても彼女から「またね」「バイバイ」といった言葉が返ってきたことはない。
「アンタも可哀想に。妹が卒業するまで影として使われるんだから」
「逃げようなんて考えない方がいい」
元来た道を戻っていたら、コンビニの袋をもって目の前を歩いてきた島と広瀬にそう言われた。
島は2年生で私と同級生、広瀬は3年生で2人とも紅竜の幹部。
可哀想と言っておきながら、可哀想なんてこれっぽっちも思ってない顔の島。
残念だけど、苺が卒業するまで影として使われる気はないし、今まさに逃げるための計画を考えている。
動揺するな、この人たちに悟られるな。
顔に出ないようポーカーフェイスをし、無視をして彼らの横を通った。
足早に帰宅すると珍しくお父さんの靴があった。
いつもはこの時間帯に帰ってこないのに…と思いながらリビングに行くと鼻歌を歌いながら料理をする母の姿。
「ただいま」
「……あぁ、帰ってたの」
声を掛ければ楽しそうな鼻歌がピタリと止まり、冷たい声が返ってきた。
「夕飯はパパと苺、3人でするから食べ終えた後におりてきて勝手に食べてね」
「はい」
私も同じ家族のはずなのに、高校生になってからこうして別々で食べさせられるようになった。
3人が食事をしているときは、イヤホンをして音楽を聴きながら宿題をし、下から聞こえる楽しそうな声が入ってこないようにしてる。
高校を卒業したら就職して、この家を出ると私は高校生になった時決めた。
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