217人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
1
『成績懇談会のお知らせ』
その紙に15時00分~と書かれているのを確認して、圭介は冷蔵庫にマグネットで貼り付ける。
参観日にも行けず、家庭訪問も断ったので、これはなんとしても行かなければと思っていた。
鈴木圭介は四十の時に妻、陽子に先立たれた。
それから二年が経つが、男手ひとつで、ひとり息子の和真を育てている。
幸いにも和真は素直に育ってくれていて、成績も良く友達も多い。
来年は高校受験だけれど、今の調子ならかなり良い学校を目指せそうだった。
圭介にも割に心を開いてくれていて休みの日には二人で買い物にも出かけたりする。
やはり陽子が亡くなってから家事と仕事を頑張る圭介を見ていたせいだろうか。反抗期もほとんど無かった。
「父さん、今日、矢野んちに泊まってもいい?」
朝食のトーストを齧りながら和真が聞いてきた。
「あ?そっか明日は祝日で休みか」
「うん。だから一緒に勉強しようってなって」
「ああ、構わないよ。迷惑かけないようにな」
「うん」
和真は朝食を食べ終えて、皿とマグカップを洗っている。
「俺、朝会議だから先に出るな。鍵閉めといて」
「わかった」
圭介は鞄を持って家を出た。
暑い日差しが照り付ける。
季節は夏本番に向かっていた。
混み合う電車に乗り込んで、いつものように会社に向かう。
冷房の効いた車内でも汗が背中に張り付いてきた。
最初のコメントを投稿しよう!