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梶井との二重奏の曲はリベルタンゴ。
正直言って激しい曲は疲れるから嫌いだ。
地球に優しく生きることをモットーとしている。
「子犬。俺に負けるなよ」
「言ってろ」
「奏花ちゃんの前だと、おりこうなくせにいなくなると口が悪いな」
無視だ、無視。
この仕事が終わったら、梶井とは完全に縁を切る。
曲のスタートから俺と梶井は攻撃しあう。
梶井は『俺が一番』という自信たっぷりな態度で弾く。
なら、俺はその鼻っ柱を殴るだけ。
梶井が『抑えろよ』という視線を送ってきたが、無視した。
ついてこれないなら、合わせてやるけど?と俺はちらりと梶井を見た時だった。
「奏花ちゃんの寝顔は可愛いよな」
弓を持つ手がブレて音程をはずしかけたところをぐっとこらえてすぐに梶井に合わせる。
ぎろっと睨むと梶井は鼻先で笑う、
それはほんの一瞬だったけど、わかるやつにはわかる。
俺がミスをした―――そう思っただろう。
曲が終わり、舞台そでに戻ると唯冬と知久がぽんっと肩を叩いて笑う。
『気にするな』ということだとわかった。
俺が動揺していることに二人とも気づいている。
二人は演奏するために舞台へと出て行った。
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