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明るい舞台から響いてくる拍手は梶井だけのものだった。
「さっきの演奏を聴いて桑地もわかったはずだ。梶井のほうが上だって」
「そ、それは」
「桑地さん、出番です」
「え、ええ。でも、私は深月と組んで演奏したいって思ってるのよ?」
「梶井が一緒にやろうって言ったら梶井を選ぶだろう?」
「私から断れないわ」
「それが答えだよ」
世界的に有名な梶井とまだ駆け出しの俺達。
桑地は黙って舞台のほうへと向かった。
次は梶井と桑地。
桑地は梶井の伴奏をする。
他の誰が梶井を選んでも構わない。
けれど、奏花だけは―――奏花は今の演奏を聴いてどう思った?
魅力的な梶井の演奏を聴いて、俺じゃなくて梶井がいいっていうかもしれない。
もしそうなったら?
俺は奏花を手放せる?
「深月さん。そんな自信をなくした顔しないでくださいよ。プロになるのを途中で挫折した俺からしたら、深月さん達はみんな天才ですよ」
いつの間にか宰田が俺の前に立っていた。
そして、演奏を終えた唯冬と知久が俺の両隣に座っていた。
「逢生。気にするな。演奏は悪くなかった」
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