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「そうそう。むしろいつもよりよかったと俺は思うぞ?激情まみれの逢生の演奏なんてそうそう聴けるものじゃないからな。あー。いいもの聴かせてもらった」
「……うん」
二人の存在はいつも俺を助けてくれる。
奏花と同じくらいに大事だ。
やっと顔をあげることができた。
視線の先には明るい光に照らされた舞台が見える。
俺はもう暗い部屋で奏花を待っている子供じゃないし、一人でもない。
深呼吸をした。
「その若さで三人ともあの梶井さんに見劣りしないくらいなんですから天才ですよ。最後までその調子でお願いしますね」
宰田は俺が大丈夫だと判断すると離れていった。
天才か。
俺達三人はそ菱水音大附属高校時代からそう呼ばれたけど、ただ手に入れたいもののために必死だっただけ。
―――残り数曲。
これ以上、梶井にこの程度かなんて思われてたまるか。
タオルを頭からばさっと取り去ると、二人が笑う。
「さて。次は俺達三人の演奏だ。梶井にもってかれてたまるか」
「そうそう。俺達は王子様らしく姫達を魅了してこようぜ」
唯冬と知久はタイを直して王子らしく片目を閉じてみせた。
梶井はわかってない。
俺には二人がいて一緒に演奏してくれるってことを。
だから、俺はまだ弾ける。
どんなに傷つけられたとしても。
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