第34話 勝敗

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陣川さんと逢生の早弾きや桑地さんと渋木さんのジャズアレンジ。 でも、最後はやっぱり梶井さんだった。 梶井さんが弾いたのは白鳥。 お母さんが好きだった曲。 マダム達は惜しみ無い拍手を送っていた。 「梶井さん。今回も素敵だったわねぇ」 「あの若い子達もよかったじゃないの」 「私はCD、持ってるのよ」 「いつの間に!」 演奏が終わるとマダム達は感想を言い合っていた。 「一番よかったのはタンゴじゃない?」 「あのチェロの子。梶井さんに噛みつく子犬みたいで可愛かったわね」 「要チェックよ」 逢生が褒められてる! よかたったね、逢生。 子犬っていうのが気になるけど、悪い評価じゃないわよ。 ありがとう!ありがとうっと手を握って回りたいとこだけど、それをやるとただのおかしな人だ。 遠巻きに眺めて、目でお礼を言っておいた。 逢生ってば、やるじゃないの。 自分が褒められたみたいに嬉しい。 席を立ち、楽屋へ向かう。 さすがにキスは無理でも頭くらいはなでてあげよう。 そんな気持ちになっていた。 宰田さんから渡されていたIDカードを首からかけて、関係者通路に入った。
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