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そう思っていたのになにも逢生は言わなかった。
どうして―――?
なにかを言う前に私の気持ちを探るように見る。
私が梶井さんの演奏を聴いて梶井さんを好きになったとでも思ってるの?
「約束だったよね?奏花ちゃん?」
逢生が手を伸ばすのが見えたけれど、その手は届かなかった。
無邪気に笑って梶井さんは私の体を軽々と抱えるとその場から連れ去った。
なにも言ってくれなかった逢生。
自分が梶井さんに負けたなんて思ってるの?
私が考えている間に梶井さんは有無をいわせず、自分の車に放り込んだ。
「深月。追いかけてこなかったね」
「……そうですね」
振り返る私を見て梶井さんは笑う。
それは勝者の笑みだった。
逢生に追いかけて欲しかったなんて言えずに黙り込んだ。
コンサートホールから車を走らせて向かったのは私の家の近く。
見慣れた場所だった。
「ここ……」
「奏花ちゃんには近所だけど、俺は久しぶりだから付き合ってよ。昔を少し思い出してさ」
梶井さんと初めて会った公園だった。
あの頃よりも公園は整備され、週末にはイベントが多く開かれる公園になっていた。
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