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手から伝わる熱を感じて握り返した。
そして、梶井さんに微笑んだ。
「なに言ってるんですか。梶井さんは一人じゃないですよ。気にかけてくれる人がいるじゃないですか」
驚いた顔で私を見る。
梶井さんは孤独な人だ。
でも、梶井さんはただ気づいてないだけ。
「海外のオーケストラに招待されていたじゃないですか。海外に行くんですよね?」
「どうしてそれを……って風邪をひいた時か」
手紙は二枚あった。
一番上にあったのは断るためのもの。
でも、二通目に送られてきた手紙には返事をまだ書いてなかった。
迷っていたけど、結局は決めたのだ―――梶井さんはもうここにはいなくなる。
きっと今日、私と『デート』と口では言いながらお別れの挨拶をするのだろうと思っていた。
これからの自分のために。
そして、この先もチェロを弾いていくために。
梶井さんはまいったなぁ……と言って笑った。
「俺が尊敬するチェリストから一緒にやろうと言われている。迷っていたけど、引き受けた。その方もお年を召しているから」
梶井さんの視線の先には先生がいる。
「時間は無限じゃなくて有限だからね」
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