第35話 奪取

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手から伝わる熱を感じて握り返した。 そして、梶井さんに微笑んだ。 「なに言ってるんですか。梶井さんは一人じゃないですよ。気にかけてくれる人がいるじゃないですか」 驚いた顔で私を見る。 梶井さんは孤独な人だ。 でも、梶井さんはただ気づいてないだけ。 「海外のオーケストラに招待されていたじゃないですか。海外に行くんですよね?」 「どうしてそれを……って風邪をひいた時か」 手紙は二枚あった。 一番上にあったのは断るためのもの。 でも、二通目に送られてきた手紙には返事をまだ書いてなかった。 迷っていたけど、結局は決めたのだ―――梶井さんはもうここにはいなくなる。 きっと今日、私と『デート』と口では言いながらお別れの挨拶をするのだろうと思っていた。 これからの自分のために。 そして、この先もチェロを弾いていくために。 梶井さんはまいったなぁ……と言って笑った。 「俺が尊敬するチェリストから一緒にやろうと言われている。迷っていたけど、引き受けた。その方もお年を召しているから」 梶井さんの視線の先には先生がいる。 「時間は無限じゃなくて有限だからね」
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