15  母と子

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 それは結構恥ずかしい。さっきの”6時52分発6両目の彼女”というのも。  自分が知らないところで話題に上がるのは、良い気がしない。   「…そんなふうに自分が知らないところで噂になるのって、なんか嫌だな」 「人の口に蓋はできないって言うからな。」 「前は別に構わなかった。ここでの話題が、私の生活に影響が出ることなんてないから」  「だね。じゃあ、なんで今は嫌なの?」  そんなの決まってる。陽平がいるから。  病院の塀が続いていて、もう少しで門に辿り着く。正面入り口の左側の通路が病棟に繋がっている。  私の意識は、母のお見舞いより陽平に傾いてしまいがちで、さっきから戸惑ってばかりだ。私は陽平の手を引いた。受付まではこのまま手を繋いでいたい。 「根も葉もない噂も、誤解されるようなことも嫌なの…陽平がいるから」 「俺?」  そう言って、きょとんとした表情になった。 「俺にとって、目の前の栞そのまんまだから、誤解はしないよ。色気付いた目で栞を見るなっ!って腹を立てることはあるけどな」 「ふーん」 「“ふーん”って何?」 「へー」 「“へー”って何?」 「それは焼きもちみたいなもの?」 「もちろん」 「へー、そう」 「何それ?」 「陽平が、焼きもちってある意味、衝撃」 「俺自身がそう思うよ。栞に関しては、知らなかった感情ばっかりだから」  もう少し聞きたい気がしたけれど、見舞客用の受付が目に入ったから話は中断。  母の部屋番号と人数、私の姓を記入した。意外に厳重な対応だなと前回も感じた。病気で弱っている人を狙う、不届き者がいたのかもしれない。 「おーい?」 「何?」 「今、かなり勇気を出して言ったんだけどなあ。まさかのノーリアクションだった」
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