15  母と子

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「だって、受付しないと」  もっと話していたかったけれど、案内しないととつい焦ってしまった。ちらと表情を伺うと、言葉のわりに優しい目で私を見る陽平と目があった。検査室が両側にある廊下を右に曲がるとエレベーターホールがある。 「意外なとこ不器用なんだ」 「…気にしてるのに」  同時に色々するより、一つ一つさっと済ませてしまう方が向いているのは分かっていた。食事も作るけど、同時進行で何品か作るより、一品ずつの方が良いんじゃないかと思うときがあるくらいだ。 「栞にしては、だからな。気にするなよ」  そう言って繋ぐのをやめた手で、私の前髪に触れた。 「何でいつもそうするの?」 「え?」 「前髪」 「教えない」 「えー?気になる」  からかいたいとか、単純な答えを待っていたのに。 「今は…まだ。大人になったら」 「そんなに動揺するんだ。深い理由?」 「深いかどうかは分からないけど。うまく話す自信がない」   「そんなに複雑?」 「いやあ、微妙な男心?」 「そんなこと言われたら、恥ずかしくなるじゃない」  私は、エレベーターの上のボタンを押して乗り込み、4Fのパネルに触れた。 「じゃあ、今の会話忘れて。たぶん、何度もするから」 「それじゃ、気にしないことにするから大人になったら必ず教えて」 「OK。それって…」  病院特有のゆっくり開閉するエレベーターが、4階に着いた。 「ごめん。何か言い掛けた?」 「大丈夫。また後で。お母さん、待ってるよな。やば。急に緊張してきた」 「なんで緊張?」 「“彼と彼女”になってから会うのは、初めてだった」 「そうだっけ」 「そうだよ」 「それ、本当に気にしなくて良いよ」 「なんで?」 「母はね、中学から付き合ってたと思ってたんだって。まだなの?って言われてた」  口を押さえて陽平が真っ赤になった。 「それって…」 「何?」 「栞の態度とか、言葉でそう思ったってことで合ってるよな?」  今度は私が動揺した。無意識に愛の告白なんて、恥ずかしすぎる。困っていたら陽平が言った。  「続きは、あと!お互い平静になろう」 「うん」 「丸聞こえよ~。早く入ってきたら~」  母の声が聞こえてきた。もう部屋の正面だった。聞こえるってことは、補聴器を着けているのか。  二人で目を会わせてから、ノックをした。 「どうぞ~」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
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