15  母と子

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 年明けくらいから、以前の朗らかな母に戻り今ではすっかり元気に見える。妊娠とともに、ふくよかになったからでもある。30週を越えた母のお腹は、かなり大きく見える。 「ご無沙汰してます。おめでと…い、や、今回は大変でした…ね?」  おかしな挨拶をした陽平を見て、母はクスクス笑い出した。 「お久しぶりね。陽平君。来てくれてありがとう。”おめでとう”も嬉しい。入院は驚いたけど、無事に家に帰るためだから。四人暮らしのために」  母は微笑んだ。入院中だからお化粧はしていないけれど、やっぱりきれいな人だなと思った。 「栞も来てくれてありがとう。また、負担を掛けちゃったのに」 「大丈夫。自分のことを自分でするだけだから、負担なんて思わないよ」  母と陽平は、同じような眼差しで私を見た。母に視線を移した陽平が、手にしていた小さなブーケを渡した。 「わあ、かわいい。ありがとう。飾らせて貰うね。何かしら?この紫の花」 「クジャクソウというんだそうです。花言葉は“いつも愉快”。で、こっちの白い花が“希望”」 「あれ?陽平クジャクソウの花言葉って聞いたっけ?」 「いや、さっき調べたんだ」  こっそり教えてくれた。 「で、白い花の名前は?」 「・・・忘れた」  思わず吹き出した。それなのに、あんなに堂々と口がきけるから、陽平は面白い。 「あらあら仲良しで良いわね。栞、悪いけどこのお花を生けてきてくれない?紙コップくらいしかないんだけど」  ボディバッグからペンケースを取り出した陽平が言った。 「じゃあ、ちょっと貸してください」  真っ白な紙コップに、様々な色合いの文様を油性ペンで描き出した。 「わ、すご」 「こんな感じでいい?全面だとうるさいから」 「知らなかった。絵も描けるんだ?」 「絵というかモチーフだよ。同じ柄の繰り返し。でも並べるとなかなか良いだろ?」  頷くことで精一杯。母も驚いた様子だ。きっと、陽平が好きな地域に伝わる文様なんだろうな。 「じゃあ、花を生けて来て」  紙コップを手渡され、母にはブーケを渡され、私は部屋を出た。二人は大丈夫なんだろうか?行きは担当の看護師さんに話しかけられ、帰りは入院中のおばあさんに話しかけられ、戻りが遅くなってしまった。 「ごめん。遅くなった」  ドアを開けると、二人はずっと話をしていた様子だった。
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