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16 relation
ナースセンターの前、テーブルセットがあるスペースで、陽平は本を読んで待っていた。痩せてはいるけれど、半袖から覗く腕は筋肉質だ。バドミントンのせいで左右差があるとは言っていたが、この角度から見える左の上腕二頭筋はかなり発達している。
簡単に言えば、細マッチョでカッコいい、ということだ。
「早かったね?急いだ?」
冊子類をまとめる仕草に、また目を奪われる。ちょっと、私ったらおかしい。
「十分話せたよ。また来るし」
「そっか。じゃあ、帰ろう」
「うん」
受付を通って退去時間を記入して歩き出すと、また陽平は手を繋いでくれた。帰りは、何だか胸一杯であまり話せなかった。電車では、なんと私は居眠りしてしまった。昨日は余り眠れなかったし、少し気が張っていたのだと思う。陽平の肩に頭を預けて寝ていることに気付いたときは、危うく声を上げそうになった。ちょうど乗り換えの駅だったから、立つ動作で漸く声を飲み込んだ。
「安心して寝ちゃったみたい」
陽平は微笑んで私を見下ろした。電車を降りるときもたもたして、いつもと違う左側から陽平を見上げた。左右対称に見える顔も、少しだけ雰囲気が違う。陽平は左の方が深い二重だから余計に。
手を引かれて、いつもの路線に移動する。並んで座れる席はなかったから、ドア近くに並んで立った。
「ね、高校の同級生とかいるかもしれないでしょ?・・・恥ずかしくない?」
「全然。寧ろ誰かに会わないかなあと思って。信じてもらえないんだ。6両目の彼女は俺の彼女だって。そのうち告るなんて言う人もいるらしいから」
「万が一そんなことがあったとしても、OKするわけないじゃない」
私は、繋いだ手に目をやって言った。
「敵は高校生だけじゃなかったし。しっかり掴まえておかないと。一緒にいられる時間を大事にしないとな」
「…先のことは、わからないもんね」
そっか。いつか終わりがくるんだな。”一緒にいられる時間”ってきっとそういうことだ。そう思って答えた。
「栞はどうしてそんなふうに思うんだろう?」
昔、世界の七不思議について考えていたときと同じような調子で、陽平は言った。
「何が?」
「栞が不安になるのは、なんでだろう?」
私は、答えようがなくて黙って俯いた。電車は、間もなく福富駅に到着する。
「この後、栞の家に行く。塾に間に合うように出るから」
その声に顔を上げようとしたけど、また陽平の手で押さえられた。少しだけ抵抗したら、前髪をまたぐしゃぐしゃにされた。
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