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結局、改札を出ても家に着くまで陽平は私の少し前を歩いていく。
手は繋いだまま。
時々話しかけてはくれるけど。
もう6時なのに、まだ暑さは引きそうにない。歩いているだけで、汗が滲む。家の門のところで、陽平は私に先を譲った。門を閉め、短いアプローチを通り玄関扉を開けると、いくぶん熱が籠っていた。
けれど、更に熱い熱に包まれた。陽平の腕が後ろから私に回されていることに気付いて、咄嗟に逃れようとしてしまった。陽平が動揺したのに気付いて、その手に私の手を重ねた。
「驚いただけなの。暑いから、上がって?エアコン入れようか?」
「思ったより涼しい。でも、栞の部屋が見たいな」
私の部屋にエアコンはない。サーキュレーターぐらい。エアコンが苦手な母が、家を建てるときにお願いした夏涼しく冬暖かい家は、なかなか快適なのかもしれない。
「私の部屋?」
「そう。栞のことが知りたいから」
それってつまり・・・そういうこと?
「えっと・・・?」
「お母さんに会った直後に変なことするほど、無頓着じゃないよ」
それはわかる。信用してる。
それぞれの考えのすり合わせは必要な気はするけど、その提案をするのは恥ずかしい。
「頭の中でぐるぐる物事を難しく考えてるんだろう?」
「そうかも」
やっとまともな返答が出来た。
「じゃあ、冷たいお水でも貰おうかな?いい?」
「うん。上がって」
結局リビングに通した。
「お母さん、元気そうで良かったね」
「うん。様子を見ながら動ける範囲を増やしていくみたい。あと、3~4週近くお腹の中にいてくれたら良いんだって」
「そっか。良くなったら退院するの?」
「どうかな?帝王切開って言ってたから、そのまま入院することになるかもしれないって」
「そうなんだ。栞は一人で平気?」
「大丈夫だよ。正直、去年までは二人でいても一人でいるのと変わりなかったから。それを思えば問題ない。今は父が帰ってきてくれるし、一人でも平気」
もう、慣れた。長いこと一人っ子だったし。一人でいることに、それほど違和感はない。
「・・・そっか」
あれ?なんか間違えたかな?
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