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たぶん、私は眉根を寄せたんだと思う。
「そんな顔するな。俺、栞のその顔見るとほんとに辛くなる」
「なんで…困るの?」
「引くなよ?⎯⎯栞の指、気持ちよすぎ」
一瞬顔から火を噴いたかと思うくらい、熱くなった。慣用句は素晴らしい。言い得ている。また変なことを考えて、私は居たたまれなさを誤魔化そうとしてしまう。
「…嫌だったの?」
「嫌じゃないから、困ってる」
「ね、五日間の設定、教えてくれる?」
「…今?この状態で?」
「じゃ、背中合わせで座る?」
「それなら、何とか言えそう」
背凭れに右腕をおいて座る陽平の背中に、少し寄りかかるみたいに座った。私のピアノの椅子に背凭れはない。
「一日目は、裸で見つめあって話すだけ。二日目は、軽いキスと軽く触れるのはOK。でも、下着で隠すような箇所は触れない。3日目は深いキスもOK。でも、触れて良い箇所は同じ。四日目は、少し範囲を広げて、五日目で解禁」
「…そう、なんだ」
少し範囲を広げてって、うっかり聞き流したけど具体的に考えると大変。でも、きっと大丈夫。“いつか“なんて、そう遠い未来ではないんだ。
「だから、一日目は今日、…無理」
「触っちゃった」
「別に栞は悪くないよ。ただ、俺が無理。我慢できなくなりそう」
「じゃ、今日は予行練習にしない?」
「え?」
「そしたら、来週二人とも戸惑わないよ」
「予行練習?」
「一日目から少し先までの」
「栞…?」
私もたぶん真っ赤だ。かなり勇気を出して伝えた。これで受け入れられなかったら、私はどうしたら良いんだろう?
「俺、栞に無理させてない?」
私は首を振った。背中合わせで伝わったかな?
「俺、駄々こねてこの部屋に入れさせてもらったのに?」
「今、駄々こねてるのは私だけど?」
陽平が動く気配がした、と思った瞬間抱きすくめられた。
「駄目だ。俺、もう我慢の限界。栞に…触れたい」
また、その腕に手を重ねたけれど、さっきとは違う。
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