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「あっちに行ける?」
えっと、あっちというのはベッドですよね?自分で誘っておきながら、既に体には緊張のあまり力が入ってガチガチ。
「栞、怖がらないで?俺だってヤバイ。自分が怖いくらいだ。でも、俺は栞を傷付けない自信だけはある」
ちょっとだけ、肩の力が抜けると陽平が脇を支えて立たせてくれた。
「栞はいつも通りこっち側」
広くはない部屋だから、ベッドまでは数歩だ。二人で横並びに座ったと思ったら、陽平が私の顔を覗き込んだ。
「泣いてる?目が赤いよ。怖いなら、やめようか」
嘘。私は泣いてない。怖い訳でもない。
「緊張してるだけ。熱もってるだけじゃないかな?」
陽平はまた額を押さえて溜め息をつく。これは、ついこの間も見た仕草。いつだっけと考えていたら、不意に唇が重ねられた。
何度も離れては、触れる。
陽平に触れているのは、手をついたベッドの上の指先と唇だけ。満たされているのに、もっと触れたいと思ったとき、少しだけキスが深くなった。顔を離そうとしたとき、陽平の大きな手で頬を支えられた。入り込む舌を、前より落ち着いて受け止められた。
でも、唇を離したとき漏れた自分の息に驚いて、思わず口を覆った。
「いつもと、そんなに変わらないことしてるのにな」
陽平は私を抱きかかえて言った。
「陽平、時間大丈夫?」
「まだ大丈夫。お父さん、帰ってくる?」
「さっきLINEが来ていて、お母さんと話があるから面会時間ギリギリまで病院にいるって。たぶん帰りは9時くらい」
「…そっか」
私に回されていた陽平の腕の力が、少し強くなった。
「もう少しだけ、近付いていい?」
「…うん」
でも、近付くって?
そう私が考えている間に、私から体を離した陽平が、シャツを脱いだ。暑いのかと思ったら、Tシャツまで脱ぎだしたから目のやり場に困ってしまった。何も言葉を発しない陽平に、そっと抱きしめられた。
陽平の体が熱い。それだけじゃなく、耳を当てると早い鼓動が聞こえる。同じなのだと分かると、少し落ち着きを取り戻せた。
陽平の胸に、そっと手を当ててみた。手を通じて温もりと鼓動を感じる。
「…だからさ、栞…」
なぜか大きく身じろぎした陽平。その背中に両手を回してくっついてみた。溜め息をついた陽平が、私に手を回して言った。
「・・・栞は、今、どんな気分なの?」
「緊張はしてるけど、でも、ほっとしてる」
「そっか。良かった」
「陽平は?」
「俺?・・・ちょっと言えない気持ちもあるけど、だいたい栞と一緒」
「ふーん?」
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