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私は何にも分かっていなかった。
小説の中の出来事も、女の子が話していることも、陽平の言葉の意味すらも。
陽平の指や手も唇も、私が知らない感覚と感情を呼び起こした。自分の口から漏れるのは溜息じゃないんだというのも、途中から分かった。
重さが私にかからないように気遣いながら、陽平が触れたのは上半身だけだったけど、心地よさに戸惑うほどだった。一方でもっと触れて欲しいと思ってしまう自分が、とてもいやらしい気がしてしまった。
「栞、いやじゃなかった?」
涙目の私に陽平が言った。
「うん。…驚いたけど、陽平が優しかったから大丈夫」
「じゃ、何で不安そうなの?」
やだ。ばればれだ。私は近くにあったタオルケットを引っ張って露わになった上半身と顔を隠した。
「もっと、って思ったのがなんか、とてつもなく・・・」
その後は言葉に出来なかった。淫らだなとかいやらしいとか。
「そんなこと言ったら、俺最初からそうだよ?たぶん栞びっくりするよ」
「何が?」
「男の事情」
・・・聞かないでおこう。
「陽平、塾は?」
「ああ、行くの嫌になってきたな」
もう、7時だった。父が帰ってくる前に食事の準備をしておきたいなと思った。陽平にも食べて貰えばいいかな?
「ちゃんと行くよ。お父さん帰ってくるまでに、栞も切り替えたいよな。なんか俺、悪い奴だ」
「高校生ってままならないね。あと1年半もあるよ?」
「1年半は確実にそばにいられる。俺は今日みたいにちょっと狡いことしたって、栞と一緒にいたい」
タオルケットごと抱き締められた。不意だったから、避ける暇もなくて陽平の筋肉の固さを布越しに感じた。
「触れてくれたの、嬉しかった。陽平のこと、もっと知りたいって、前よりも好きって思ったよ?」
「…駄目だ。このまま栞のそばにいると、俺やばい。やっぱりもう塾行く」
陽平はがばっと起き上がって、着替え始めた。
「私も着替えるから、少し待ってて。」
もぞもぞとタオルケットの中で下着を身につけてから、起き上がってブラウスを着た。
「器用だな?俺あんなに苦労したのに」
思い出して、私は真っ赤になった。ホックを外せなくて押し上げようとした陽平に、外し方を教えてあげるなんて、どうかしてた。
「焦らずにいような?すぐにでもって気持ちもあるけど、ずっと一緒だから大丈夫って思いもあるんだ」
ずっと一緒だから。
陽平がそう思ってくれているのが嬉しい。
嘘はつかない陽平だから。
叶わないかもしれなくても、偽りのない本音だ。
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