16 relation

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 至近距離で目があったから、思わず目を伏せると、今度はゆっくり唇が重なった。  私の感覚が変わった。  降るみたいにしゃわしゃわと蝉が鳴いているのに気付いた。触れる唇の熱や柔らかさに、胸の奥が軋むみたいな痛みを感じた。そして、陽平の香りが鼻腔をくすぐる。  唇を離した時、陽平は大人の男の人みたいな笑い声をたてた。 「栞が”もっと”って言ってる」  私が否定も肯定もできずにいると、さっきより深く重ねられた。最後に、上唇と下唇をそれぞれ挟むように触れて、終わらせた。 「…どうして、こんなことできるの?」 「栞を見てたら、したくなっただけ。どうしてそんなこと聞くんだ?」 「ちょっと、なんか。疑う訳じゃないんだけとね。陽平は知ってるんだなって思った」  陽平は驚くくらい透明に見える瞳で私を見下ろした。見返した私の前髪を、ぐしゃぐしゃにしながら言った。 「なあ、今日を一日目にカウントしない?」 「どうして?」 「しばらく二日目から進まなくたって良いよ。明日、栞になんにも触れられないのは辛すぎる。我慢なんかできない」   「別に、…拘らなくてもいいんじゃない?」 「んー。でも、何か枷がないと俺が危ない気がする」 「危ない?」 「盛りがついた雄になりそう」 「…ちょっと。はっきり言いすぎ」 「大事にしたいんだ。だから」 「わかった。いいよ」  私はまた陽平の肩に額をつけた。この体勢が、とっても落ち着く。陽平は私の腰に腕を回した。 「でも、さ。…明日は3日目だよ?」 「え?」 「良いと思う。それで」 「栞はそれでいいの?」 「無理だったら、待ってくれるんでしょ?それならいい」 「なんなんだろ?早くって思ったり、まだまだって思ったり。きっとそれが必要ならそうなるし、まだ早かったらそうならない気がする。流れに任せようかな」 「時々、世の中達観してるよね?」 「昔は人間って、そうだったんじゃないかなって思うんだ。自分の意思でどうにもならないことがあると特に」  陽平の人生に、そんなことがあったのか。  ちょっと切ない。一人で苦しんで、諦めていたとしたら。 「かわいそうなものを見る目をするな。俺の気持ちだけど、俺自身のことじゃないから」 「ふーん」  また前髪をぐしゃぐしゃにする。いつか、必ず理由を教えて貰おう。
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