17 relation Ⅱ

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 最近の悩みは、人には軽く言えない。  栞が更にきれいになった。  化粧しているわけでも、髪型を変えたわけでもない。 ”6両目の彼女”が今日は立ったまま目を閉じて寝ていたみたいだと、駅から高校まで歩く間に騒いでいる奴がいた。睫毛が長いとか、口元がかわいかったとか、ふざけんな。栞をそんな目で見るな。  ”そんな目”って?  そんな風にいつも思ってるのは、俺じゃないか?とここまで考えて漸く気付いた。  誰よりもそんな目で栞を見ているのは、俺じゃないか?  かなりショックだった。栞を大事にしていないみたいで。  栞があまり好きじゃないという奥二重の目元が、俺はとても魅力的だと思う。角度や表情で、妖艶にも幼くも見える。知らないんだろうな。本人は。  登校時の電車で一緒だったとき、やけに俺たちが乗ったドア付近が混雑していたことがあった。二人で乗り込んでふっと栞を見たら男どもの間に立っている。  両脇の男ども、少し表情が緩んでないか?目線が怪しくないか?  そう思ったら、かーっとなった。  栞の腕を思いっきり引いて、ドアに押しつけてしまった。  傷つけたり痛い思いをさせたりなんて、したくないのに。  俺との間にも隙間を作りつつ、男どもからガードした。この状態で新宿まで行くのか?更に乗り換えるんだぞ。付いていこうかなと本気で思った。 「大丈夫。毎日のことだから」  わかってんのかな? 「頼むからさ。時々車両変えて?」  栞の耳元に口を寄せて言った。ドアに手を突いて、腕立てふせ状態だ。 「どうして?」 「栞、きっと狙われてる。あいつとかあいつとか、ここにはいないかもしれないけど変質者とか」 「まさか」  全く気にも留めてないから困る。 「身を守るすべだよ。都心に通学とか通勤してる人はそうするらしいよ」  どこかで聞いたことがあるようなことを都合良く思い出したから、そう言ってみた。 「そうなんだ?ちょっと友達にも聞いてみよ。心配してくれてありがと」  隣の多宝駅に着いた。忘れもしない、あいつが乗り降りする駅だ。俺が一緒にいられるのはあと一駅。 「次の駅で俺と一緒に降りて、別な車両に乗ったら?」 「そうした方が良いと思う?」 「うん」 「陽平が言うならそうする。・・・少しだけ一緒にいられるしね」  かわいすぎだろ。  ⎯⎯⎯栞が、俺のものになれば良い。  そう思わずにいられない。  それが、夏休みに入る前の出来事。  
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