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ちょっと頭がどうにかなっている気がする。午前中の部活で前半ミスを連発して、智也に心配された。栞のことで頭がいっぱいで日常がうまくいかないなんて、全く情けない。いや、栞のことで頭がいっぱいならこんなことにはならない。これはもう、欲にまみれてるからだなと反省する。
気持ちを切り替えて、目の前のシャトルと相手の動きに集中することにした。何とか、いつものペースを取り戻して終了。
「珍しいな?陽平が不調だなんて」
「気をつけるよ」
「なんか、あった?」
「いや、なんでもない。なんでもないよ、ほんとに」
ジト目の智也から目を逸らし、否定した。なんかあったと言っているようなものだけど、今はまだ言いたくはない。
智也だってなんかあっただろうに、言わないし。もう少し、落ち着いてからだ。
お互い彼女のことを大事に思っているから、おもしろおかしく話題になんて出来ないのをよく知っている。
「それならいいよ。また明日な。俺これから香那と待ち合わせてるからさ」
良いな、同じ学校だと。今度は俺がジト目だ。智也はやっと表情を緩ませて、いいだろー?と俺をからかった。
「俺だって今日栞に会えるんだ」
「なんだ、そのせいで気もそぞろなだけか」
智也の言葉はスルーした。その通りだから。
「宜しく言っといて」
その言葉にだけ応じた。
午後、割と早い時間に家に着いたという栞からのメッセージが届いた。俺は速攻で家を出る。妹は、仕事が休みの母と今日は病院に行くと言っていたから、留守だった。
俺の部屋に来て貰うのもありか。今度片付けておこう。
今日は、四日目。
楽しみでもあり、明日が待ち遠しくて苦しくもある。
ノースリーブのブラウスに、ワイドパンツという装いの栞に迎えられた。陸上部のユニフォームを着慣れていたからか、恥ずかしがりの栞だけれど夏にノースリーブの服を着ることに抵抗はないみたいだ。結構な割合で着ている。
今日はなんだか、目がちかちかするくらい眩しく感じる。
「今日も・・・暑かったね」
栞の顔も見られないまま、俺が言った。
「うん。暑かったでしょ?部屋、涼しくておいたから上がって?」
栞の後について階段を上る。部屋のドアノブに手を掛けたとき、ちらっと俺の表情を窺った気配がした。
「どうかした?陽平」
「うん。たぶんどうかしてる」
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